労働基準法上の人権擁護規定(不当な人身拘束の防止③)
不当な人身拘束の防止規定として、労働基準法5条は、使用者は、暴行・脅迫・監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって労働者の意思に反して労働を強制してはならない、と規定しています。
具体的には、強制労働の禁止、契約期間の制限、賠償予定の禁止、前借金相殺の禁止、強制貯金・任意的貯蓄金管理の規制があります。
労働基準法17条は、使用者は前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない、と規定しています。
前借金その他労働することを条件とする前貸の債権とは、労働の強制ないし人身的拘束の手段となるようなもののみを指し、使用者が友誼的な立場から行う場合は、これに該当しないと考えられています。
よって、住宅資金の借入れや、給料の前借りも、将来の給料・ボーナスで分割弁済していくことを約しても、それが、労働の強制や人身的拘束の手段とならない限り、原則として前借金その他労働することを条件とする前貸の債権にはあたらないと考えられます。
この規定は、前借金が、過去に労働者の人身拘束のため足止め策として使用されていたことから規制されたものです。
しかし、給料の前借りの一形態であることも考慮し、前借金は禁止せず、賃金との相殺のみが禁止されています。
ただし、前借金自体が、強制労働禁止(労働基準法5条)や公序良俗違反(民法の90条)となる可能性はあります。
労働基準法18条は、使用者は、労働契約に付随して貯蓄の契約をさせ、また貯蓄金を管理する契約をしてはならない、と規定しています。
この規定は、不当な人身拘束の防止、労働者の財産保全、使用者が労働者財産を搾取することの防止、を目的として規定されています。
労働契約に付随してとは、労働契約締結または存続の条件として、という意味です。
貯蓄の契約をさせ、とは、労働者に使用者以外の第三者と貯蓄の契約をさせることです。
貯蓄金を管理する契約には、使用者が直接労働者から預金を受け入れる場合と、使用者が、労働者から受け入れた金銭を金融機関に預けて管理する契約とがあります。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。