内定取り消し
企業は、いったん採用内定を学生に対して出したなら、これに法的拘束力が生じるので、あとで自由に取り消すことはできません。
採用内定とは、法的に言うと「始期付」「解約権留保付」「労働契約」であるとされています(大日本印刷事件:最高裁判例昭和54年7月20日)。
(1)「始期付」というのは、大学を卒業した後から就労が開始されますよ、という意味です。
(2)「解約権留保付」というのは、一定の内定取消事由が生じた場合は解約できますよ、という意味です。
たとえば、採用内定通知書や誓約書には、履歴書に学歴詐称があった場合や学生が大学を卒業することができなかった場合には内定を取り消す、などと記載されていることが通常です。応募してきた学生の側が、本当は高卒なのに大学卒業見込みと履歴書に書いてきたような場合は、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるもの」(大日本印刷事件:最高裁判例昭和54年7月20日)である限りは、内定を取り消すことができます。
(3)最後に、採用内定は「労働契約」です。最高裁の考えでは、企業による募集は労働契約の申込みの誘因であり、学生による応募は申込み、企業による内定通知は承諾にあたるとされています。したがって、内定通知によって、学生と企業との間で申込みと承諾の合致があることになり、労働契約が成立すると考えられています。
いったん労働契約が成立したということになれば、そこには法的拘束力が働き、もはや企業の側から一方的に自由に内定を取り消すことができなくなります。企業が違法に内定が取り消した場合、そのような内定取消は、違法な解雇と同様に無効となります。
そして、内定取消が違法か適法かの判断基準が、上記(2)で記載した判例の基準なのです。すなわち、採用内定を取り消すことができるのは、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるもの」に限られる、というものなのです。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。