〝問題社員〟の対応にはご用心!:札幌の弁護士が使用者側・経営者側の対応・心構えを相談・アドバイス
労使問題を抱える経営者A氏にその対応策をレクチャーしました。
A氏 従業員の賃金アップを考えています。
前田 それは結構なことですが、その後賃金の減額は原則従業員の合意が必要ですから、難しいですよ。
もし、現在抱えている労務問題の解決策として考えているのであれば、抜本的な解決にはなりません。
A氏 問題がこじれたら、給与の1カ月分を支払って解雇します。
前田 それは解雇できる場合であっても、原則として1カ月分を支払わなければならない、という決まりです。
解雇することはそう簡単ではありません。
「著しく労働能力が劣り、しかも向上の見込みがないという場合に限る」などとして、解雇を無効とした裁判例は珍し
くありません。中には、業務命令違反の労働者に対する4回のけん責(戒告)後でも、解雇を無効とした例もありま
す。ところで、日常の労務管理は大丈夫ですか。
A氏 残業問題はきちんと対策を講じていますよ。
前田 経営者は「基本給に含めて金額を決めていた」「管理職手当・精勤手当に含んでいる」「休憩していて仕事をしてい
ない時間が多い」などと反論しますが、これらの弁解は意味をなしません。仮眠時間や空き時間も労働時間に含まれ
るとした例、労働者自身が作成した超勤時間整理簿をもとに残業時間を認定した例もあります。
つまり、労働法や裁判所の判断は、労働者に有利となっています。最近では、男性の育休取得に関するパタニティハ
ラスメントの問題(第31回参照)のように、考え方や価値観の違いによる争いも増えていますし、労働組合が結成さ
れるケースもあります。
A氏 当社は従業員数も少ないですし、組合とは無縁です。
前田 一人でも加入できる「合同労組」や「ユニオン」といった組織があります。加入した元従業員とともに「団体交渉に
社長を出席させろ」「決算書を出せ」などと要求され、対応せざるを得なくなった例もあります。初動対応が重要で
す。これらの対処は、まず案件の個別具体的な事情を分析し、問題の核心を把握します。その上で緻密な対応策を練
ることが必要です。うつ病・メンタルヘルス問題(健康管理、休職、職場復帰)やセクハラ・パワハラ問題も同様で
す。先日、北海道労働委員会で不当労働行為と認定された事案を、中央労働委員会(労働委員会の最高裁判所的な機
関)に持ち込み、意に適った和解を成立させました。労働法・裁判の実際を理解し、異なる切り口でアプローチすれ
ば、解決可能な案件もあるのです。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。