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【使用者側弁護士前田尚一(札幌)の視点】解雇・退職勧奨を進めるうえでの勘所

 

●自分に対する態度が気に入らない社員を解雇しようとした。

●入社時に病気を患っていたにもかかわらず、それを隠していた社員を解雇しようとした。

●社員がノルマを達成しないので、社員を解雇しようとした。

 

従業員を解雇することは,経営者が考えるほど簡単ではありません。
能力不足や勤務態度の不良という理由で従業員を解雇する場合のハードルは,極めて高いのです。
これまで担当してきた事例を見ても,社長が従業員を解雇して,紛争に発展し,労働組合問題が発生し,収拾がつかなくなりかけたこともあります。

すぐに実践・対策に入りたい場合は,こちらからどうぞ。

 

 

解雇規制の厳格さ

 特に不況が深刻になると,能力不足や勤務態度の不良の従業員を解雇したいと考える経営者が,多くおられます。
 しかし,わが国では,これまでの終身雇用制を背景として解雇規制は極めて厳しいというのが実際です。

 

 しかし,わが国の解雇についての法規制は極めて厳格であり,その判断は慎重に行われています。
 労働契約法16条は,「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」と規定されています。
 この条項は,法律に先立ち,最高裁判所が,「使用者の解雇権の行使も,それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には,権利の濫用として無効になる」と判示し(最高裁昭和50年4月25日第二小法廷判決[日本食塩製造事件]),最高裁判例として確立された「解雇権濫用法理」が明文化されたものです。

 

 従業員を解雇することは,経営者が考えるほど簡単ではありません。「病気で元の業務を遂行できなくとも配置可能な業務を検討すべきである」とか,「平均的な水準に達していない」というだけでは不十分です。
 著しく労働能力が劣り,しかも向上の見込みがないという場合でなければならない」などとして解雇を無効とした裁判例は珍しくなく,能力不足や勤務態度の不良という理由で従業員を解雇する場合のハードルは,極めて高いものです。
 業務命令違反の労働者に対する4回のけん責(戒告)後の解雇を無効とした裁判例もあります。

 

 いまだに1か月分の賃料を支払えば解雇できると思い込んでいる経営者もおられ,驚くばかりです。

 

無効事例の事案の内容を確認

 「能力不足」を理由とする解雇についての事例として,古い裁判例ですが,端的な事例として東京地裁平成11年10月15日決定[セガ・エンタープライゼス事件]があります【事例解説】。
 就業規則の「労働能力が劣り,向上の見込みがない」との解雇条項による解雇が無効であるとされた事例です。

 

 この事例のような事案であっても,解雇が認められない事例として,とても参考になります。ぜひご確認ください。

 

 

整理解雇の場合

 裁判では、整理解雇における解雇の有効性は①人員整理をおこなう必要性(人員削減の必要性)②できる限り解雇を回避するための措置が尽くされているか(解雇回避努力)③解雇対象者の選定基準が客観的・合理的であるか(人選の合理性)④労働組合との協議や労働者への説明がおこなわれてるか(手続の妥当性)という4つの要素を総合的に判断されています(整理解雇法理)。

 

 そして,苦境に陥った経営者は、経営上の理由での余剰人員の削減なのだから、ハードルは低くなるだろうと思い込み、整理解雇法理の要素をつい都合よく捉えがちです。

 

 しかし、整理解雇は使用者側の事情を理由とし、相当数の労働者を対象として解雇する場合です。個別の労働者についての能力不足や勤務不良といった事情を直接的理由とするものではないため、一般の解雇と比べてより厳しい制約があり、慎重に検討すべきです。裁判では経営者が考えるより厳格に判断され、解雇が無効とされた事例が多いのです

「整理解雇を円滑に進めるためには」
[企業の新たな課題]
こちら

 

経営者にとって複雑怪奇な現実

 札幌地方裁判所の事件ですが,出張旅費の着服で懲戒解雇された従業員からの退職金の支払い請求に対し,約540万円の支払と認めた裁判例もあります(札幌地裁平成20年5月19日判決)。
 経営者の立場で考えると,裁判所の判断は複雑怪奇というほかないかもしれませんが,現実は現実として受け止めなければなりません。

 

「退職勧奨」とはいえ……

 従業員に退職願を提出させる「退職勧奨」の方法で進めたのに,失敗される経営者もおられます。

 現に,町立病院に勤務する臨床検査技師の退職の意思表示の撤回が有効であるとされた事例もあります(旭川地裁平成25年9月17日判決)。

 また,「退職勧奨」が上手く行かないので,持久戦でと,社員に自主退職をさせるよう仕向けようとして失敗した事例もあります。一人だけ別室に配置され(このような,いわば軟禁室を「パソナルーム」と呼びます),会議や忘年会などにも呼ばれず,1日100件の飛び込みによる新規顧客開拓をノルマとされていた事案で150万円の慰謝料が認められた事例もあります(大阪地裁平成27年4月24日判決[大和証券・日の出証券事件])。

 誰もが思い付く方法,世間の物知りのアドバイスにお手軽に飛びつくと,失敗も多いのです。このような方法を用いる場合は,きちんとした手順を踏んで慎重に対応をしなければ失敗します。

 

 

その他留意事項

 

 契約社員の雇い止めが無効とされた事例,解雇せずに退職勧奨したのに退職強要として不法行為にあたるとされた事例などがあり,留意すべきことは山のようにあります。
 
 解雇を通知したことを契機に労働組合が結成されることもあります。円満に協議していく内容の書面であると思って署名捺印したら,何事も組合の同意がなければ決められなくなってしまったとか,「団体交渉に社長を出席させろ」「決算書を提出しろ」と要求され応じざるを得なくなった事例もしばしばみられます。経営者としては,これまで体験したことのない団体交渉に出席して対応するだけでも大変なことでしょう。

 

 こういった問題に加え,証拠の確保という観点からの心構えもありますので,壊滅的な事態にならないよう専門家の意見をきながら一緒に事を進める必要があります。使用者側の労働問題については,無料で相談を受けていますので,ぜひご利用下さい。

 

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