採用
企業にとって優秀な人材を確保することは重要なことですが,一度雇用してしまうと,容易に解雇をすることはできません。では,正式な雇用の前段階とも言える,内定や試用期間の段階であればどうでしょうか。
内定
現在,裁判所は採用内定を「始期付き解約権留保付きの労働契約」であると考えています(森尾電機事件‐東京高判昭47・3・31労民23巻2号149頁,大日本印刷事件‐最二小判昭54・7・20民集33巻5号582頁,電電公社近畿電通局事件‐最二小判昭55・5・30民集34巻3号464頁)。すなわち,採用内定通知が発信された段階で,労働契約が成立するので(民法526条1項),内定企業は内定を自由に破棄できません。ただし,この労働契約の効力が発生するのは,労働者が学校を卒業するなどして勤務を開始する日からですし(始期付),採用内定通知書や誓約書に記載された採用内定取消事由が生じた場合は内定を取り消せます(解約権の留保)。
もっとも,採用内定取消事由が発生したからといって,常に内定取消が許されるわけではありません。前記の2つの判例は,「解約権留保の趣旨,目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」との限定を付しました。
試用期間
現在,裁判所は試用期間を「解約権留保付きの労働契約」であると考えています(三菱樹脂事件‐最大判昭48・12・12民集27巻11号1536頁)。すなわち,試用期間中であったとしても,労働契約は成立しているので,企業は自由に本採用の拒否を行うことはできません。しかし,試用期間中に,労働者の資質・性格・能力などの適格性に関する資料を収集し,不適格であるとの判断に至れば,本採用を拒否することもできるというものです(解約権の留保)。もっとも,前記判例も,留保解約権の行使も,解約権留保の趣旨・目的に照らして,客観的に合理的な理由が存し,社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される,としています。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。