労働時間の始点・終点
労働基準法89条1号は、始業および終業の時刻を、就業規則の必要的記載事項として、規定しています。
就業規則は、労働契約法7条により、労働契約の内容となりますから、労働者は始業時刻から終業時刻までの就労義務を負っていることになります。
しかし、労働基準法上、労働時間は実労働時間とされます。
そこで、労働時間算定上の始点と終点が問題となります。
具体的には、タイムカードで管理している場合における、その打刻時点と実際の始業・終業時刻との関係や、始業・終業時刻とパソコンのログインログアウト等の時刻との関係が問題となります。
つまり、始業時刻前に労働した場合には、その時点が始点となりますし、終業時刻後も残業した場合には、その業務終了時刻が終点となります。
そこで、就業時刻外における、朝礼・打ち合わせ、準備、後始末等の時間が問題となります。
まず、始業時間前の更衣や準備体操等の準備時間につきましては、なんら労働とみられる行為を行っているわけではなかったり、体操等についても義務付けられているものでなければ、労働時間とはならないと判断されています(住友電工事件 大阪地判昭和56年8月25日)。
また、着替えや準備行為等につきまして、会社の明示・黙示の指示がある場合におきましても、それが労働者の安全確保のためにとった会社の便宜的措置にすぎないとして労働時間に含まれないとしたものもあります(日野自動車工業事件 東京高判昭和56年7月16日)。
しかし、これらにつきましても、職務の性質によっては、業務上の災害防止の見地からの義務付けがなされている場合もあり、また、生産性の向上や職場秩序維持などの経営管理上の見地から義務付けることなどもありますが、そのような場合につきましては、業務開始の準備行為として業務に含まれる可能性があります(石川島播磨重工東二工場事件 東京高判昭和59年10月分31日)。
ただし、実労働時間につき特段の具体的主張・立証がなければ、就業規則に定める始業・終業時刻をもって労働時間が算定されます(レイズ事件 東京地判平成22年10月分27日)。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。