労働契約の締結過程(採用選考)
使用者は、労働契約を締結するに際して、基本的には採用の自由を有します。しかしながら、法律や裁判所の判例により種々の制限がなされています。
これを採用における労働者選択についてみれば、採用選考過程について、裁判所は、憲法が経済活動の自由を認めていることから(憲法22条1項、29条)、使用者の採用の自由を重視していましたが(三菱樹脂事件 最大判昭和48年12月12日)、近年になり、プライバシー等人権保護意識が高まっていることにより、制約がなされてきており、種々の法律で差別禁止規定が存在します(雇用機会均等法、雇用対策法、障害者雇用促進法等)。
裁判例では、採用の自由について、思想・信条を直接の決定的な理由として採用拒否をすることは違法となるとするものもあります(慶大医学部附属厚生女子学院事件 東京高判昭和50年12月22日)。しかしながら、最高裁は、労働基準法3条の均等待遇の原則は、雇用関係成立後の労働条件についての制限であり、これは採用そのものを制約するものではなく、思想・信条を理由とする採用拒否も、それを当然に違法とすることはできない、としています(三菱樹脂事件 最大判昭和48年12月12日)。
選考過程における調査の自由については、裁判所においても、疾病等の健康情報の検査につき、HIV等については、正当な目的ないし業務上の必要性もなく、本人の同意もない相当性を欠く態様で検査したことが違法と判断され、不法行為責任が認められたものもあります(東京地判平成15年5月28日等)。これは、種々の差別禁止規定が存在する法律により保護されない場合でも、保護される余地を認めるものと考えられます。
これらについて、ある事由を理由とする採用拒否が違法とはいえない以上は、その事由の調査も違法ではないという論理が、近年におけるプライバシー権等を重視する傾向により、必ずしも妥当しなくなっているとも考えられています。
この点につきましては、裁判例の変化のみならず、募集採用段階における求職者の情報取得について、法的に規制が設けられるようになっており、また、行政実務においても、そのような見解が出されてきています。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。