団体交渉事項拒否の正当事由
労働組合法は、7条で使用者がしてはならない不当労働行為を定めており、その2号におきまして、使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと、を不当労働行為として禁じています。
この正当な理由につきましては、一般的には、労働組合が団体交渉の当事者として認められない場合、団体交渉事項が義務的団体交渉事項でない場合、交渉担当者に交渉権限がない場合、交渉の時間・手続・態様等のルールについて団体交渉拒否するような理由がある場合等が考えられます。
以下では具体的に問題となりうるものについての裁判例を検討します。
・労働組合側の不当な対応があった場合 要求自体が不当であるだけでは、団体交渉拒否の正当な理由とはなりませんが、団体交渉の場におきまして、暴力行為を行ったり、使用者の説明を妨害するような行為を行った場合におきましては、団体交渉拒否の正当な理由となります(大同印刷事件 福岡地判昭和62年11月24日)。
・団体交渉が行き詰った場合 団体交渉を行う際に、使用者には誠実団交義務がありますが、これは妥結義務までを要求するものではありませんので、団体交渉が行き詰った以上、それ以上の団体交渉の続行は無意味なものとしてこれを拒否したとしましても、正当な理由と認められます(黒川乳業事件 東京地判平成元年12月20日など)。
どのような段階になれば交渉が行き詰ったといえるのかは諸般の事情によりますが、誠実団交義務の履行がなされているか否かが重要な判断要素となると考えられています。
・組合員の解雇についてすでに長期間が経過している場合 裁判所は、解雇から6年の経過後に団体交渉が申し入れられた事案におきまして、地位確認訴訟が提起されていることや、解雇問題は相当期間を経ても解決の余地があることなどから、団体交渉拒否に正当な理由がないとしたものもありますし(日本鋼管事件 東京高判昭和57年10月7日)、解雇から8年10ヶ月の経過後に団体交渉が申し入れられた事案におきまして、被解雇者が以前に所属していた労働組合が十分に協議をしていたことを理由に、団体交渉の拒否に正当な理由があるとしたものもあり(三菱電機鎌倉製作所事件 東京地判昭和63年12月22日)、結果としては判断は分かれています。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。