労働基準法上の人権擁護規定(均等待遇の原則)
労働基準法は、労働者の人権擁護規定を設けています。
第1章で労働憲章と称し、労働条件のあり方、均等待遇、男女同一賃金、強制労働の禁止、中間搾取の排除、公民権行使の保障が規定され、その他にも、契約期間の上限、賠償額予定の禁止、 前借金相殺の禁止、強制貯蓄の禁止、事業場の付属寄宿舎における拘束的慣行の排除等の規定があります。
その中で、均等待遇の禁止とは、憲法14条における平等原則と同様の原則を、その列挙する事由に限って、労働関係について定めたものです。
労働基準法3条は、使用者は、労働者の国籍、信条または社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない、と規定しています。
ただし、労働基準法は、時間外・休日労働、深夜業、危険有害業務、産前産後の休業、等の事項についての女性の保護基準を定めることにより、女性に対して労働関係上は男性と異なる取り扱いをしてきましたので、労働基準法3条では、意識的に除外されています。
労働基準法3条にいう、労働条件とは、労働契約関係における労働者の待遇の一切をいいます。
ここには、災害補償や安全保障、福利厚生などの諸条件も含まれますし、解雇に関する基準も労働条件に含まれると考えられています。
しかし、この規定は、採用後の労働関係を規制する規定ですから、採用に関する条件は、ここにいう労働条件には該当しないと考えられ、裁判所でも、採用については採用の自由が認められると解されています(三菱樹脂事件 最大判昭和48年12月12日)。
差別的取扱とは、特定のまたは一定グループの労働者を他の労働者と区別して異なる取り扱いをすることをいいます。
具体的な列挙事由についてですが、人種には国籍も含まれていると考えられています。
(日立製作所事件 横浜地判昭和49年6月19日、東京国際学園事件 東京地判平成13年3月15日)
信条については、思想・信条そのものを理由とする差別的取扱について禁止しているだけで、思想信条に伴う行動が、企業の秩序や利益を侵害する場合には、その行動を理由に差別的取扱をすることの全てが禁止されているわけではありません。
社会的身分については、自己の意思によっては逃れることのできない社会的な分類を指すと考えられています。
均等待遇違反の効果は、罰則(労働基準法119条1号)を科されるほか、それが法律行為であれば、強行法規違反として無効とされます。
そして、さらに、不法行為として損害賠償責任を負う可能性があります。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。