従業員が引き抜きされた事例:退職した従業員に対する損害賠償請求
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労働者が他社に転職したり、他の会社の労働者を勧誘して自分の会社で雇用しようとすることは、職業選択の自由や営業の自由に属する行為であり、基本的には自由にできることです。したがって、引き抜きも、通常の勧誘行為にとどまる限りは適法であって、引き抜きを受けた企業はその打撃を甘受しなければならないことになります。すべきこととなります([ジャクパコーポレーション事件]大阪地方裁判所平成12年9月22日判決)。
しかし、競争相手である企業と労働者が共謀して内密に計画を進め、元の企業の労働者を一斉大量に引き抜くなどといった内容と態様が悪質であるような場合には、労働契約上の債務不履行責任又は不法行為責任が生じうるとされています。
フレックスジャパン・アドバンテック事件(大阪地方裁判所平成14年9月11日判決)は、人材派遣企業間の派遣スタッフの引き抜きの事案で、とても参考になります。
特定労働者派遣事業を営む原告の従業員であった被告A,被告B,被告C及び被告Dが,原告在職中及び退職後にわたって,被告会社と共謀して違法な方法により原告の派遣スタッフを大量に引き抜いたとして,原告が,被告らに対し,雇用契約上の債務不履行又は不法行為に基づき,その引き抜き行為によって受けた損害の賠償を求め、7965万0366円を請求した事案で、628万9464円の支払が認められた事例です。
「退職した従業員に対する損害賠償請求-競業避止義務・引き抜きの場面」については、こちらをご覧ください。
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[参考]フレックスジャパン・アドバンテック事件の【事実関係】
X社:労働者派遣法に基づく特定労働者派遣事業等を目的とする株式会社
Y社:広告代理業、出版・印刷業、労働者派遣法に基づく特定労働者派遣事業等を目的とする株式会社
Y1:X在職中、金沢営業所の所長に当たるマネージャー
Y2:X在職中、Y1に次ぐ地位のキャップ
Y3:X在職中、金沢営業所等を統轄する北陸ブロックのエリアマネージャー
Y4:X在職中、富山営業所の所長に当たるマネージャー
Y1、Y2、Y3及びY4の4名は、一身上の都合による退職届を突然X社に提出して、事務引継ぎも行わずにX社を退職した。
Y1ら4名は、X社在職中にすでにY社と密接な関係にある訴外Z社に入社が内定していたが、退職後しばらくしてから、Y1はY社に入社し、Y2、Y3及びY4は、Y社と密接な関係にある訴外Z社に入社した。
Y社は、Y2の採用内定後、同社の営業課主任と記載された名刺等をY2に渡し、Y2はX社の派遣先企業の1つであるA社を訪れて派遣スタッフにX社金沢営業所が閉鎖されるなどの虚偽の事実を述べてY社への入社を勧誘し、この名刺を渡した。
Y2は、A社への派遣スタッフ15名ほどを飲食店に集めて会合を持ち、会合にはY1及びZ社の代表者も同席し、Y1は自分もX社を退職することを告げて、Y社に転職後も従前同様にA社に派遣されることや利益供与を申し出て転職を勧誘した。
X社の金沢営業所および富山営業所の派遣スタッフ合計182名のうち80名が突然一斉にX社を退職し、そのうちのほとんどが翌日にY社に入社し、X社在籍中と同じ各派遣先企業にY社から派遣された。
Y1はY社に入社前であったが、X社の派遣先企業でありY1が在職中に管理を担当していたB社へのX社の派遣スタッフ5名に現金3万円を手渡してY社への移籍を勧誘した。Y1は、移籍を決意した4名の派遣スタッフに退職届の提出等を指示し、4名はX社を退職し、翌日にY社に入社し、Y社からB社に派遣された。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。