賃金の定義
労働基準法上、賃金に関しては、支払方法の諸原則が定められており(24条、25条)。そして、違反すれば刑罰が科される場合があり(120条1号)、非常に重要な概念のひとつです。
そこで、労働基準法上の賃金は、客観的に明らかにされるべきものとされます。
労働基準法では、賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいいます(11条)。
第1の要件は労働の対償であることです。
この要件に該当するかについては、給付の性質・内容に照らして個別的に判断されます。
労働の対償は広く解釈され、実務上は、労働の対償たる賃金とは区別されるべきものとして、任意的恩恵的給付、福利厚生給付、企業設備・業務費という概念をたて、これらに該当するものは賃金ではないと処理しています。
この点について、具体的に問題となると考えられるものに、退職金や賞与があります。
最高裁判所によれば、就業規則その他において支給基準が明らかにされており、使用者に支給義務がある場合には、退職金は賃金に当たるとされています(伊予相互銀行事件 最判昭和43年5月28日)。
賞与についても、就業規則等に根拠があり、支給基準が明定されていれば賃金にあたります(ジャード事件 東京地判昭和53年2月23日)。
一方、いかなる基準で支給するかが、もっぱら使用者の裁量に委ねられた任意的恩恵的給付は賃金にはあたらないことになります。
また、使用者が、従業員の福利厚生ためにする給付や、業務遂行のために負担する企業設備・業務費は、労働の対償とはいえませんので、賃金にはあたりません。
第2の要件は使用者が労働者に支払うものであることです。
労働者に支払うものではないとして、賃金ではないとされるものに、死亡時退職金(日本貿易振興会事件 最判昭和55年11月27日)や労働者ではない取締役等への役員報酬等があります。
死亡時給付金は、使用者が遺族に支払うものであり、労働者に支払うものでないという理由から賃金から除外されますし、役員報酬については、従業員を兼務しない取締役であれば労働者に該当しませんので、賃金にも該当しません。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。