人手不足と労務問題は表裏一体。早期発見・治療が重要:札幌の弁護士が使用者側の対応・心構えを相談・アドバイス
顧問先社長との談話です。
A社長 先生,uhbの「おじゃまします!」見ましたよ(9月2日(土)午前10時55分から)。
弁護士 この連載の,「経営者の常識は危険!」(第60回)でご説明したことを,かいつまんで解説しましたので,放映時間が短かったので,もっとじっくりと説明して欲しいという経営者の方々が多かったかもしれません。
A社長 最近,特に長時間労働や残業手当の未払い,パワーハラスメントといった労使問題が大きく取り沙汰されていますね。
弁護士 大企業でさえ,根幹を揺るがしかねない大問題です。ただ,「人手不足」が深刻化する中,もはや「ブラック企業」との汚名を着せられる企業は即退場となります。そして,電通「過労自殺」事件などを契機に,政府は,今年3月「働き方改革」をまとめ,10年後をゴールとして,特に,①同一労働同一賃金の実現,②長時間労働の是正といった改革を策定しています。既に法制化され,対応を余儀なくされている「無期転換ルール」もあり,企業は,収益構造が現状のままで,改革が具体化されれば,経費だけが増加するということになります。また,具体的に法制度とされる前のスローガンの段階でも,社会の風潮なったり,社員の中では,抽象的で漠然としたまま,権利意識ばかりが高まっていく可能性があります。労働者を“たきつける”弁護士のHPも急増しており,拍車をかけることになるでしょう。
A社長 対応を間違ってしまうと,致命的な事態になってしまう場合がありますね。顧客の立場で考えると,私も,ヤマト運輸「サービス残業」事件の結果,とても配達受取りが不便となりました。もしこれが中小企業であれば,あっという間に,顧客が離れてしまい,致命的となりそうです。「人手不足」は,当社でも深刻な悩みです。今後,きちんと労務管理・労務対策,就業規則の整備などの必要性も考えていかなければなりませんね。ところで,問題の多くには経営側の「思い込み」が深く関わっているといいますね。
弁護士 まず,従来の経営手法や社会常識で物事を解決できると思い込むこと,そして,誰が見ても自分の考え方が常識的で正しいと思い込んでしまうこと。さらに,結論が出ているのに,長々と話し合うのは無駄であると思い込んでいる………。しかし,常識といわれるものが立場により違い,労働法の分野では,立場の違う者同士では,時間をかけた手続が重視されるのです。何よりも,労働法は労働者に有利にできており,裁判所も労働者に有利に判断する傾向があるという現実を受け入れなければなりません。
A社長 ご指摘の点,確かに,自分でも気付いていない経営者が多いですね。
弁護士 しかも,忙しい経営者は,安易な解決手段に飛びついて,事を拗らせてしまうことも多い。日本マクドナルドの「名ばかり管理職」事件が著名ですが,これを契機に採用が増えた「固定残業代(定額残業代)制度」についても,「ザ・ウィンザー・ホテルインターナショナル事件」等失敗例が多くあります。外回りが多いと,「事業外労働のみなし制」を活用したくなるところですが,募集型企画旅行の添乗業務であっても,この制度を適用できないという最高裁判決があります(「阪急トラベルサポート残業代等請求事件」)。「」を採用しても,
A社長 私の会社では,これまで先生の事務所には,債権回収とか,不動産,新規事業などの相談や対応をお願いしてきました。しかし,ブラック企業はそもそも論外となり,大きく労使環境が変容する流れの中であり,今後は,注意深く,労務問題にも取り組んでいくつもりです。
弁護士 変容される大きな流れの中で,就業規則の制定・見直しはもちろんですが,長い目をもって,法律制度の動きと企業内での社員の動きにアンテナを張っておく必要があります。労働問題となりそうな何か不安めいたことがあったら,早い時期から察知し,案件の具体的な状況を分析し,問題の核心を把握する体制を確立しておかなければなりません。その場合,例えば,判例,行政の見解にパワハラとは何かという基準を求めてもほとんど役に立ちません。同じことを言われても,ウッチャンであれば嬉しいが,向かいの〇〇課長だと,身震いがする,というのが現実です。何か違和感を感じるような場面があったら,まずは相談してください。
(2017年10月の記事です。)
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。