労災補償(過労死・精神障害)
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労災補償・過労死について
現在、脳・心臓疾患は、死因の大きな割合を占めています。そして、いわゆる過労死の原因ともされています。
これらは、加齢や日常生活の種々の要因と影響し合い、悪化、発症に至りますので、業務上の有害因子を特定できないことから、別表の業務上疾病には具体的には列挙されていませんでしたが、その後、過重負荷による脳・心臓疾患として列挙されており、その認定にあたってはそれまでの判断枠組みで検討されています。
また、列挙事由である脳・心臓疾患にあたらない疾病でも、過重業務によって発症したと認められる場合には、それまでの判断枠組みで判断する裁判例が多く見受けられます。
すなわち、その場合には、「その他業務に起因することが明らかな疾病」と認められることが必要となりますが、その判断の際に、脳・心臓疾患について判断されてきた枠組みが参考とされています。
この点に関しまして、行政実務では、過重負荷を受けるべき期間を、長期間の業務上の疲労の蓄積による場合を考慮して緩和してきましたが、過重負荷を受けたことにより、自然的経過を超えて著しく憎悪し発症したと認められる場合が、業務によるものと認められるとしてきました。
そして、業務の過重性を誰を基準に判断するのかについては、当該労働者と同程度の年齢、経験等を有する健康な状態にある者のほか、基礎疾病を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる者、を基準としています。
業務上の過重負荷と発症との関係については、業務上の過重負荷による影響が基礎疾患の自然的憎悪よりも相対的に有力な要因でなければならないとしていると考えられます。
これに対し、裁判所の判断としては、業務の遂行が基礎疾患を自然的経過を超えて急激に憎悪させるなど、基礎疾患と共同原因となって発症を招いたのであればよい、との考え方(向島労基署長[渡辺興行]事件 東京高判平成3年2月4日)や、日常の勤務態様や発症前の諸々の状況の総合判断によって判定する(横浜南労基署長[東京海上横浜支店]事件 最判平成12年7月17日)ものが見られますが、近年では、自然的経過を超えて基礎疾患を著しく憎悪させたか否かのみを判断し、相対的に有力な原因といえるかは問題とされていないと考えられます。
つまり、裁判所は、行政の事実認定や判断基準にとらわれず、労働者に有利な認定判断を行なっていることが多いと考えられます。
労災補償・精神障害
労働者におけるうつ病などの精神障害は、近年、労災認定申請が急増しています。
精神障害については、現在では、心理的負荷による精神障害として、労規則上、業務上疾病として列挙されています(労規則35条、別表第1の2)。
行政実務では、その認定基準として、環境由来の心理的負荷と個体側の反応性・脆弱性との関係で決まるとされ、心理的負荷が強ければ個体側の脆弱性が小さくても、脆弱性が大きければ心理的負荷が弱くても精神障害が生じうるとの理論(いわゆるストレスー脆弱性理論)が採用されていると考えられています。
精神障害の業務起因性の認定要件としては、精神疾患が業務との関連で発病する可能性のある一定の精神疾患にあたり、発病前のおおむね6ヶ月間に業務による強い心理的負荷が認められ、業務以外の心理的負荷及び個体側要因により発病したと認められないこと、が挙げられています。
心理的負荷については、同種の労働者、つまり、職種、職場における立場・職責、年齢、経験等が類似する労働者が、一般的にはどう受け止めるかという観点から評価されます。
心理的負荷の強度の判断や、業務以外の心理的負荷については、「心理的による精神障害の認定基準について」における別表で摘示されています。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。