退職(合意解約と解雇):札幌の弁護士が使用者側の対応・心構えを相談・アドバイス
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解雇と合意解約について
解雇とは
解雇とは、使用者の一方的な意思表示による労働契約の解約です。解雇には、種々の法規制があります。
合意解約とは?
合意解約は、使用者と労働者との合意により、労働契約を将来に向かって解約することです。
合意解約の場合、解雇に関する法規制を受けません。
ただ、合意を促す場合であっても、社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な退職勧奨行為は、その行為自体が不法行為を構成するとされています(【下関商業高校事件】最高裁昭和55年7月10日判決)。
実際に労働契約が終了する場合に、解雇なのか合意解約なのか明確ではない場合もあります。
使用者が、労働者に対し、退職勧奨をしながらこれに応じない場合に解雇するとの意思表示をする場合があります。これは、合意解約の申し込みと合意解約の不成立を条件とする停止条件付解雇の意思表示となります。
解雇と合意解約とでは、その法律構成や成立要件に違いがありますので、どちらなのか不明確な場合に問題が生じます。
裁判所は、退職願や解雇通知のみで認定せず、全証拠により形成せられる心証上の判断であるとし、当事者の言動や事実経過などを総合的に考慮して認定しています(【小野田セメント解雇事件】山口地裁昭和34年3月5日判決等)。
これは、停止条件付解雇の意思表示の場合にも生じ得る問題ですし、また、停止条件付解雇の意思表示の場合には、解雇が無効である場合にも問題が生じます。
裁判所によれば、退職勧奨を受けいれた労働者が、脅迫に基づく意思表示であったなど特別の事情がない限り、退職勧奨に応ずるか否かの意思決定の自由があり、また、条件付解雇そのものを争う余地もあることから、合意解約の申込みであり、解雇通告ではないとしています(【富士製鉄事件】最高裁昭和40年12月23日判決)。
また、条件付解雇の場合で、退職勧奨に応じて成立した合意解約について、解雇の意思表示が無効である場合の合意解約の効果については、見解が異なっており、合意退職の勧告と期限付解雇の意思表示とは、事実上一体不可分のものとしてなされるため、期限付解雇の意思表示に不当労働行為的意図その他の公序良俗に反する意図が存する場合には、合意退職も無効となるとしたもの(【川崎重工事件】大阪高裁昭和38年2月18日判決)と任意退職の勧告と停止条件付解雇の意思表示を別個の法律的評価に服するものとして、合意解約も無効となるわけではないとしたものがあります(【播磨造船事件】神戸地裁龍野支部昭和38年9月19日判決)
退職金について
退職金とは、労働契約の終了に伴い、使用者が労働者に支払う金員のことをいいます。
退職金は、一般的に勤続年数が長くなればそれだけ支給率が上昇しますので、我が国における長期雇用制度を支えてきた要因の1つでもあります。
退職金の法的性質としては、労働協約、就業規則、労働契約であらかじめ支給条件が明確に定められていた場合には、労働基準法11条にいう、賃金に該当しますので、賃金の後払いの性格を有します。また、支給率が勤続年数に従い上昇するため功労報償的な性格も有すると考えられています。
そして、退職金が労基法11条の賃金に該当する場合には、通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならない、ということになります(労基法の24条1項)。
民間企業であれば、退職金制度を支払うか否か、どのような内容を支払うかについては使用者の自由に委ねられています。
しかし、退職金制度を定めている場合には、労働条件の明示義務として、退職金が適用される労働者の範囲や計算及び支払方法、支払時期等を明示する義務を負い(労働基準法15条1項、労規則5条1項4号の2)、常時10人以上の労働者がいる事業場において退職金制度を定める場合には、一定事項を就業規則に明記する必要があります(労働基準法89条3号の2)。
労働契約や就業規則等においてこのような定めをしている場合には、労働者は、労働契約が終了しますと退職金支払請求権を有することになります。
退職金規定を定めずに、内規により支給していた事案についても、労使慣行の存在を認定し、労働者の退職金請求権が認められた事案もあります(キョーイクソフト事件 東京高判平成18年7月19日)。
そうしますと、懲戒解雇や同業他社へ就職する場合等に、退職金の不支給ないし減額を内容とする定めを設けることができるかが問題となります。
この点に関しまして、例えば、退職金が、退職金前払い制度との選択制度として設けられている場合などは、退職金の功労報償としての性格が希薄で、賃金の後払いとしての性格が強いと考えられますので、退職金の減額については、厳格に判断される可能性が高まります。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。