カスハラに対する企業対応の在り方 -悪質なクレーマーとの対峙:人員不足時代の急務
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従来から、モンスタークレーマーとか、モンスター顧客という言葉はありましたが、問題を、営業妨害の観点からとらえれれていました。
しかし、現在、このような顧客から従業員をどう守るかという観点に重点がおかれます。
従業員がそのような対応をしなければならないことに嫌悪し退社にまで至ったり、また、そのような場で勤務することがある会社には最初から就職しないなどといったことが現実化しています。
構造的な人員不足の現状で、会社としては、カスハラ問題に対する失策は死活問題ともなりかねません。
横行する〝カスハラ〟から担当者を守れ!
カスハラ(カスタマーハラスメント)が社会問題化しています。
ここでは、カスハラのハラスメントとしての性格を確認しながら、有効な企業のクレイム対策・クレイマー対応のシステムを明らかにしていきます。
まずは、「概要」をどうぞ。
ハラスメントも多様化〝カスハラ〟って何?
「カスハラ」労災10年で78人、24人が自殺。悪質クレーム対策急務――10月23日の毎日新聞の見出しです。
「カスハラ」とは、カスタマーハラスメントの略であり、顧客や取引先からのクレームによるハラスメントのことです。セクハラ、パワハラ同様、事業主は労働者の安全に配慮しなければなりません。
社会生活での不満を背景に、弱い者を攻撃するという潮流の中、「自分は正しい」と思い込んで理不尽な要求をするモンスタークレーマーが激増しています。消費者を保護する法制度が拡充し続けているのも大きな要因であり、企業の存続・発展を考えれば、喫緊の最重要テーマでしょう。
クレーム対応の定番は、今も昔も現場対応者のスキルアップとマニュアル化です。モンスタークレーマーかどうかを区別し、適切に対応することが不可欠といわれていますが、とうてい無理があります。そもそもクレーム処理の鉄則といっても、接客のプロと呼ばれる特殊な能力を備えた人々の職人芸であったり、法的手段という最終的武器を備えた弁護士らの上から目線の理屈がほとんどです。
通常業務をこなすことに四苦八苦している現場担当者に、それを求めるのは非現実的です。
モンスターと対峙する仕組みづくりが重要
しかも〝モンスター〟と対峙する担当者は、世代的に耐性に弱い上、仕事として顧客対応まで求められるのは見合わないと考える層だと思います。また「お客さまは神様だ」と上司や先輩に叱責されながらクレーム対応してきた管理者でも、人手不足の上、採用してもすぐに退職してしまうことが多い現状では「お客さんがおかしい」と新人の慰めに終始するだけではないでしょうか。
「カスハラ」問題の抜本的な解決と、広くクレーマー対策は、顧客、取引先との信頼を獲得し、良好な関係を維持していく一方、労働者が安全に働ける環境整備に配慮する必要があります。つまりは、生産性の阻害要因を排除することであり「働き方改革」の目指す「生産性向上」を実現させることです。
まずは現場担当者に特殊な職人芸を求めることはやめましょう。顧客とトラブルになる要素を極力減らす状況をつくり、担当者にはその限りでのスキルを高めてもらう。トラブルになりそうだったら、すぐ次の段階へ移行して対応する、そういった仕組みが不可欠です。
当事務所では、ハラスメント問題一般への対応をはじめ、個別具体的なクレーム、クレーマートラブルの対処・解決、さらには「カスハラ問題」を踏まえたクレーマー対策・クレーム処理の仕組みづくりについてアドバイスもしています。関心を持たれましたら、ぜひご相談ください。
【関連ページ】弁護士による従業員支援プログラム(EAP)について
ーメンタルヘルス対策の一考:弁護士の福利厚生への活用
「詳細」は,こちらから。
「カスハラ」の社会問題化
《「カスハラ」労災10年で78人、24人が自殺 悪質クレーム対策急務》
これは、令和元年(2019年)10月23日、「毎日新聞」のデジタル毎日で取り上げられた記事の見出しです。記事は、次の文章で始まります。
「顧客や取引先からのクレームによる精神障害が仕事に起因したとして、厚生労働省が労災認定した人が過去10年間で78人に上り、うち24人が自殺していたことが判明した。接客で自分の気持ちをコントロールする必要がある「感情労働」に携わる人を守るため、悪質なクレーム「カスタマーハラスメント(カスハラ)」対策が国や企業に求められている。……」
この頃、「カスハラ」という言葉を、よく目にし、耳にするようになりました。
記事で説明されているとおり、「カスハラ」とは、「カスタマーハラスメント」の略です。顧客からのクレームによるハラスメントのことで、「カスタマーハラスメント」とほぼ同じ意味で、「クレイマーハラスメント」という用語が使われていることもあります。
そして、「カスハラ」問題は、社会問題化しています。
行政の取組
平成30年(2018年)2月21日、厚生労働省の諮問機関である「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」では、次の内容の「顧客や取引先からの迷惑行為について」という題名の資料を基に、この問題が取り上げられました。
顧客や取引先からの迷惑行為について
○ 使用者が労働契約に伴って負う安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となるその具体的状況によって異なるものの、一般的には、顧客や取引先など外部の者から迷惑行為があった場合にも、事業者は労働者の安全に配慮する必要がある場合があると考えられる。
○ 事業主が、労働者の安全に配慮するために対応が求められる点においては、顧客や取引先からの迷惑行為は職場のパワーハラスメントと類似性がある。
○ しかしながら、顧客や取引先からの迷惑行為への対応は、職場のパワーハラスメントへの対応と次の点で異なると考えられる。
① 職場のパワーハラスメントと比べて実効性のある予防策を講じることは一般的には困難な面がある。
② 顧客には就業規則など事業主が司る規範の影響が及ばないため、対応に実効性が伴わない場合がある。
③ 顧客の要求に応じないことや、顧客に対して対応を要求することが事業の妨げになる場合がある。
④ 問題が取引先との商慣行に由来する場合には、事業主ができる範囲での対応では解決に繋がらない場合がある。
⑤ 接客や営業、苦情相談窓口など顧客等への対応業務には、それ自体に顧客等からの一定程度の注文やクレームへの対応が内在している。
○ 以上を踏まえた場合に、 顧客や取引先からの迷惑行為への対応としてどのような取組が考えられるか。
そして、職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会の「報告書(平成30年3月)」では、加害者が従業員ではない、いちおう顧客であるなど、職場のパワハラとの違いから、企業側の対応に限界あり問題の指摘(問題提起)にあえてとどめ、今後の議論を喚起することが重要と扱われています(「職場のハラスメント対策-パワハラを中心に-」)。
企業におけるクレーマー対応の重要性
企業に対するクレームへの対応は、消費者の「権利意識の高揚」を背景に、消費者を保護する法制度が消費者に有利に進化し続けている中で、企業として最重要テーマであることは間違いありません。
適切に対応しないと、取引が無効と扱われ、民事的解決を図る必要が生じたり、行政指導や刑事事件に発展することもあり、企業の不祥事として社会問題化したり、「ブラック企業」との汚名を着せられ、事業に大きな支障を来すことになりかねません。
企業においては、「カスハラ」対策は、喫緊の課題であって、「企業側の対応に限界」があるなどと言って、「職場のパワハラとの違いから、企業側の対応に限界あり問題の指摘(問題提起)」にとどめておくなどと言っている場合ではないことは言うまでもありません。
クレーマー対策の現状
従来、よく論じられてきたことは、現場でのクレームー対策のスキルアップ、マニュアル化です。
〇クレーマーのクレームの内容を明確にする、
〇関連する事実関係を正確に確認して確定する、
〇クレーム内容に客観的な法律評価をして、法的問題を含むものなのかどうかを確定し、その性質に応じ、対応策を確定する、
〇クレーマーの話は時間をかけてよく聞き、人格を損ねるような対応をしないことはもちろん、怒りが増長するような対処は避ける、
〇意見は否定せず要求は聞かない……、
などなど、原理原則論に始まり、テクニックにまで及ぶ、セオリー、メソッド、ノウハウが論じ、最前線、現場の従業員にも、スキルアップが求められてきました。
そして、漠然と「権利意識の高揚」と説明される実態の一場面として、社会生活での不満が、意図的か、無意識かはともかく、弱い者へ向けられるという風潮が拡がる中で、「自分は正しい」との思い込んで理不尽な要求をするモンスタークレーマーが激増しているという現状があります。
もっとも、このような状況は、今始まった訳ではなく、「店員に”土下座”強要…女を逮捕」というテーマで、テレビニュースの解説をしたことがあります(2013年10月7、8日 日本テレビ 「news zero」・「ZIP!」)。近時、ようやく企業全体が自身の問題と認識するようになったということでしょう。
そこで、さらにクレーム処理・クレーマー対策のスキルアップを図り、クレーマーをモンスタークレーマーとそうでない正当なクレーマーとを区別し、適切に対応していく、などといった考えが述べられることが少なくありません。
クレーマー対策の考え方
しかし、私は、従来から論じられてきた、現場でのクレーマー対策に求める水準、スキルアップの考え方自体に無理があったと考えます。
というのも、クレーマー対策についての原理原則論、テクニックといわれるものが、「接客のプロ」呼ばれる経験と特殊な能力を備えた人々の職人芸であったり、法的手段という最終的武器を備えた弁護士らの上から目線の理屈であるのがほとんどで、本来の業務をこなすことに四苦八苦している現場担当者に、マニュアル化して身に付けることを求めることができるような性質のものではないといわざるをえないからです。
試しに、Amazon | アマゾン で、「カスハラ」とか、「クレーマー」などといったキーワードで検索し、よさげな本を購入して、実際にその内容のとおり実行してみてはいかがでしょうか……。
しかも、顧客のモンスター化が進展する中、これを受ける側においても、世代的に、耐性に弱く、また、仕事として顧客対応まで求められるのは見合わないと考える層が拡大しています。
言い悪いは別として、新人の頃、「お客様は神様だ」、「顧客を怒らせてどうするのだ」と繰り返し上司、先輩から叱責されながら、現場で何とかクレーム対応していた中間管理者も、人手不足の上、すぐに採用しても退職してしまうことが多い現状では、新人に対し、「今のトラブルは、お客さんがおかしいんだ」、「気にする必要はないよ」などと言って慰める、といった場面が多いのではないでしょうか。
「カスハラ」問題の解決、広くクレーマー対策は、企業にとって、顧客、取引先との間で、信頼を確保し、良好な関係を維持していく一方、労働者が安全に働ける環境を整備に配慮し、生産性の阻害要因の排除して、「生産性の向上」を図るという、収益構造を構築するという、「全体最適」の問題です。なお、「パワーハラスメント(パワハラ)の法制化」の活用については、こちらをご一読ください。
そうすると、社会の現況を踏まえる限り、企業としては、現場の従業員には、モンスタークレーマーと正当なクレーマーの区別をした上で適切な対応をとるなどといった職人芸を求めることはやめにする。まずは、顧客との間で、トラブルとなる要素を極力減らす状況作りをし、現場の従業員には、その限りでのスキルをアップしてもらい、クレーマーとの間でトラブル化しそうになったら、すぐ次の段階へ移行して対応する、そういった仕組み作りこそが不可欠で、喫緊の課題ということになります。
今やそれが長く続いているので若い方には当然のことと思われるかもしれませんが、ある年代の方には、お気づきと思われる現象があります。病院に行くと、昔は、医療のプロたちからの上から目線の対応だった印象があります。ところが、ある時期から、医療のプロたちは、患者に対する「ご免なさいね」というを言葉を頻発するようになりました。それで、すべて医療の場の問題が解決したというわけではもちろなりませんが、このような対応に一定の効果があったことは否定できません。
ただ、10年程前に、講師を仰せつかった『事例から学ぶ医療訴訟と暴言・暴力への法的対応法講座』というセミナー中に、現場担当者から口を揃えて述べられたのは、病院が何もしてくれない、患者への対応は、自分たちに丸投げしている。」という不満でした(「モンスターペイシャント」)。
患者に対する「ご免なさいね」というを言葉の頻発も、始まりは、丸投げ状況の中で生成された、現場担当者の知恵、防衛手段だったのかもしれません。
しかし、今や、企業としては、上記のような視点を明確に持って、このような知恵を汲み上げながら、企業の「全体最適」の観点から視点を変えて、有用で実効的な仕組み作りをすることが急務です。
「カスハラ問題」、さらに広くハラスメント問題一般に加え、クレーマー対策・クレーム処理について、関心を持たれたら、ぜひ当事務所にご相談ください。
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前田尚一法律事務所では、「テレビやラジオ」「TVニュース」出演、「新聞や雑誌」記事・インタビュー掲載などの実際の経験を踏まえ、各メディアへの出演・取材・法律監修、書籍執筆などのご依額を承っております。
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前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。