兼業禁止規定
近年、雇用形態が多様化し、また賃金水準の低下等に伴い、兼業が増加傾向にあります。
具体的にどのような兼業を禁止できるかといいますと、裁判例によれば、「企業秩序に影響するか否か」「労務提供上の支障が生じるか否か」が判断基準となります。
企業秩序とは、一般には、経営目的を遂行する組織体としての企業が必要とし実施する、構成員に対する統制の全般を意味するとされています。そしてその中に服務規律が含まれます。
一般的には、服務規律として従業員の行為規範が就業規則に定められており、服務規律の中の従業員としての地位・身分による規律として、兼職・兼業の規制がなされていることが多いです。
そして、懲戒の事由の1つとしての従業員たる地位・身分に伴う規律の違反として、無許可兼職も含まれる可能性があります。
労働時間以外の時間をどのように利用するかについては、基本的には労働者の自由であると考えられますし、近年、多様な働き方の1つとして兼業を行う労働者も増加していますので、厚生労働省は、その報告書において、労働者の兼業を禁止したり許可制とする就業規則の規定や個別の合意については、やむを得ない事由がある場合を除き、無効とすることが適当であるとしています。その上で、やむを得ない事由として、兼業が不正な競業に当たる場合、営業秘密の不正な仕様・開示を伴う場合、労働者の働きすぎによって人の生命または健康を害する恐れがある場合、兼業の態様が使用者の社会的信用を傷つける場合を挙げています。
上記やむを得ない事由に挙げられているものは、企業秩序に影響する場合や、労務提供上の支障が生ずる場合、会社に対する労働者の健康状態への配慮という安全配慮義務などを挙げたものと考えられます。
多くの会社では、就業規則上、兼職を禁止または許可制にしていますが、裁判例は、会社の職場秩序に影響せず、かつ会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就職は禁止の違反とはいえないとするとともに、そのような影響・支障のあるものは禁止に違反し、懲戒処分の対象となるとしています(橋元運輸事件判決 名古屋地判昭和47年4月28日)。
休日についても、職場秩序に影響したり、労務の提供に支障をきたすような兼職は禁止できますが、平日よりも労務提供の支障の程度は一般的に低いと考えられますし、私生活上の行為という側面が一般的には強くなると考えられることから、平日と比較して禁止できる場合はさらに限定されることになります。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。