自宅待機命令
懲戒処分に関する調査に時間を要する場合などに、その期間中は出社に適しない場合、使用者は当該労働者に対しまして、懲戒処分の前段階におきましても自宅待機を命ずることがあります。
これは、懲戒処分としての出勤停止ではなく、業務命令によるものとなりますので、このような自宅待機命令が許されるのかが問題となります。
まず、自宅待機命令は、労働者に就労請求権が認められる場合を除きまして、使用者がその期間中も賃金を支払う限りは、原則として業務命令として行うことができることになります。
裁判例におきましても、労働者の労務の性質上就労することに特段の利益がある場合を除き、雇用契約上の一般的指揮監督権に基づく業務命令として許されるとされています(ノースウエスト航空事件 千葉地判平成5年9月24日)。
また、自宅待機命令は、その期間中に賃金が支給され、労働者に就労請求権が認められない場合であれば、就業規則に定めがなくても、雇用契約上の労務指揮権に基づく適法な業務命令と認めることができるとされています(中央公論社事件 東京地判昭和54年3月30日)。
そうしますと、自宅待機は使用者の都合に基づき発せられていますから、その趣旨を、労働者が自宅に待機することをもって、その労働者が提供すべき労務とする旨の職務命令と解しまして、自宅待機は労働契約上正常に勤務したものとして取り扱うべきであり、使用者は賃金支払い義務を免れるものではないとした裁判例があります(三葉興業事件 東京地判昭和63年5月16日)。
そして、自宅待機が、業務上の必要性がない場合や不当に長期間にわたる場合、自宅待機命令は違法となり、無効とされます。
裁判例におきましては、自宅待機命令に正当な理由がない場合には、裁量権の逸脱として違法となると解すべきである、としまして、使用者が自宅待機命令を長期間継続した主たる目的が、労働者に任意の退職を求めることにあり、その間必要な非違行為の事実調査を尽くさなかったことを理由としまして、自宅待機命令の継続につきまして、正当な理由を欠き違法と判断したものがあります(ノースウエスト航空事件 千葉地判平成5年9月24日)。
使用者が、自宅待機期間中の労働者に対しまして、賃金支払を免れるためには、不正行為の再発や証拠隠滅の恐れなどの緊急かつ合理的な理由が存する場合など、労務の受領拒否が使用者の責めに帰すべからざる事由による履行不能(民法536条1項)に該当する場合に限られることになります。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。