地方公共団体の男性職員が勤務時間中に訪れた店舗の女性従業員にわいせつな行為等をしたことを理由とする停職6月の懲戒処分が相当かどうかが争われた事例【加古川市事件】
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加古川市事件 最高裁平成30年11月16日第三小法廷判決
本件は,自動車運転士として,主に一般廃棄物の収集・運搬の職務に従事していた地方公共団体公務員について,コンビニ店員にセクハラを繰り返したことを理由とする停職6か月の懲戒処分が相当かどうかが争われた事案です。
最高裁は,地方公共団体の男性職員が勤務時間中に訪れた店舗の女性従業員にわいせつな行為等をしたことを理由とする停職6月の懲戒処分に裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があるとした原審の判断に違法があるとしました。
セクハラ,パワハラ等のハラスメントについては,使用者の社員・従業員に対する場面ばかりではなく,社員・従業員間のセクハラ,パワハラなどについて,使用者が負う職場環境配慮義務に基づく義務を背景に,被害者との関係で損害賠償義務を負ったり,職場環境配慮義務を果たすために,加害者に一定の懲戒処分をする場合に,加害者との間で,処分の有効性について法律問題が発生する場面もあります。
本件は,セクハラが外部の第三者に向けられた点に特徴があり,端的に懲戒権の濫用といった問題ではあるものの,ハラスメントそのものについての使用者対労働者という図式ではなく,セクハラの個別具体的な中身が掘り下げられたという点で,企業が,職場環境配慮義務を果たすために,加害者に一定の懲戒処分をする場面でも、参考になると思われます。
申し少し判断の内容を具体的にいうと,次のとおり判断しました。
ただ,一般的にいうと,現実の訴訟において,(3)~(5)までを立証するのは,なかなか難しいという気がします。
労働事件の場合,特に基本的・根本的な流れをどのように見てもらうことができるかが極めて重要という印象があります。
裁判要旨
地方公共団体の男性職員が勤務時間中に訪れたコンビニ店舗においてその女性従業員の手を自らの下半身に接触させようとするなどのわいせつな行為等をしたことを理由とする停職6月の懲戒処分がされた場合において,次の(1)~(5)など判示の事情の下では,上記処分に裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるとした原審の判断には,懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。
(1)男性職員の行為は,職員と女性従業員が客と店員の関係にあって拒絶が困難であることに乗じて行われた。
(2)男性職員の行為は,勤務時間中に市の制服を着用してされたものである上,複数の新聞で報道されるなどしており,地方公共団体の公務一般に対する住民の信頼を大きく損なうものであった。
(3)男性職員は,以前からコンビニ店舗の女性従業員らを不快に思わせる不適切な言動をしており,これを理由の一つとして退職した女性従業員もいた。
(4)女性従業員が終始笑顔で行動し,男性職員から手や腕を絡められるという身体的接触に抵抗を示さなかったとしても,それは客との間のトラブルを避けるためのものであったとみる余地がある。
(5)女性従業員及びコンビニ店舗のオーナーが男性職員の処罰を望まないとしても,それは事情聴取の負担やコンビニ店舗の営業への悪影響等を懸念したことによるものとも解される。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。