業務災害の概念
業務災害とは、労働者の業務上の負傷、疾病、障害または死亡、であるとされています(労災保法7条1項1号)。
そして、業務上と認定されるためには、当該労働者の業務と負傷等の結果との間に、因果関係が存在することが必要となりますが、その際の因果関係について、業務に通常内在または随伴する危険が現実化したと認められるような場合には、相当因果関係が認められるとするものがあります(地公災基金東京支部長[町田高校]事件 最判平成8年1月23日等)。
これは、単に条件関係があるだけでは足りないとするものではありますが、労基署等の行政基準よりは広く認められていると考えられます。
これが、労災保険制度において問題となる場合には、労災保険制度が労災補償責任を共同で補填する制度であることから、事業主に共同で負担させることが相当であるような労働者の労務遂行に定型的に伴う危険に及ぶと考えられています。
具体的には、死亡した労働者について、その使用者における業務には過重負荷が認められないものの、転職前の会社での業務について過重性が認められるとして、業務起因性が認められたものがあります(足立労基署長[クォーク]事件 東京地判平成23年4月18日)。
そして、労働者が業務との関連で発生した事故による負傷・死亡の場合と、業務との関連で疾病に罹患した場合とでは、業務上といえるか否かという判断基準が異なってきます。
事故による負傷・死亡が業務上の負傷・死亡といえるか、という判断には、業務遂行性と、業務起因性が必要とされています。
これは、業務上とは業務起因性を意味し、業務起因性の要件として事故の業務遂行性が要求されていると考えらます。
また、業務上の疾病については、労働基準法施行規則35条、別表第1の2に列挙されており、列挙事由については、特段の反証がない限りは、業務上の疾病と認められ、列挙されていない疾病も業務に起因することを認定できれば、業務上の疾病として取り扱われます(神戸東労基署長[ゴールドリングジャパン]事件 最判平成16年9月7日)。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。