団体交渉:札幌の弁護士が使用者側の対応・心構えを相談・アドバイス
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「労働組合対策・団体交渉・不当労働行為」の実際ついては
こちらをご覧ください。
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団体交渉マニュアル『ACTION PROGRAM “団交”対応メモ』[復刻版]は、こちら。
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団体交渉とは
団体交渉とは、労働者の集団または労働組合が代表者を通じて、使用者または使用者団体の代表者と労働者の待遇または労使関係上のルールについて合意を達成することを主たる目的として交渉を行うこと、をいいます。
労組法上の団体交渉に該当する場合、その効果としまして、まず、団体交渉に際しての労働者の行為につきましては、刑事免責、民事免責、不利益取扱いからの保護が認められます。
次に、使用者は団体交渉に応じる義務を負います。
団体交渉の目的
団体交渉の目的は、労組法1条によれば、使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること、と規定されていますから、代表者を通じて労働協約を締結するための交渉が団体交渉だとする考え方もあります。
しかしながら、労組法1条に6条によれば、労働組合の交渉権限は、労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有する、とされていますので、団体交渉は労働協約を締結するものに限定されません。
民刑事免責の範囲につきましては、身体に対する物理的有形力の行使などは、刑事免責は及びません(日本電線暴行被告事件 最判昭和29年8月20日など)。
団体交渉に要した勤務時間に関しましては、使用者は、それを会社の損失として、労働組合に損害賠償請求をすることは認められません(労組法8条による民事免責)。
使用者(会社側)が負う誠実団交義務
使用者は、労働者の代表者と誠実に交渉に当たる義務を負っています(誠実団交義務)。
行政実務では、この義務は、要求に対して対案を用意し、または、資料を提供する等進んで討論に参加し、一致点を見出すよう努力することを要する、としています。
しかし、使用者は、要求に応じて、譲歩、妥協する義務は負っていないと考えられていますので、一致点をみいだすよう努力する義務はとは何かが問題となります。
この点につきまして、使用者は、たんに組合の要求・主張を聞くだけではなく、要求・主張に対しその具体性や程度に応じた回答や主張をなし、必要に応じて資料を提示する義務があると考えられます。
裁判所も、使用者は、労働組合に対し、自己のよって立つ主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどして、誠実に交渉を行う義務がある(シムラ事件 東京地判平成9年3月27日)、としていますし、その際には、使用者側の誠実性は、労働組合側の態度と対比して、相対的に定めることと考えられています(葦原運輸機工事件 大阪地判昭和53年3月3日)。
労働者が団結した団体
憲法は、その28条におきまして、勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体交渉をする権利を保障しています。 そうしますと、憲法上は、労働者が団結した団体であれば、団体交渉の主体として認められることとなります。
しかし、労組法上の権利を保障されるためには、労組法上の労働組合である必要があります。
労組法における規定
労組法におきましては、以下のような要件が規定されています。
労組法は、その2条本文で、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体またはその連合団体を労働組合と定めていますので、これを満たすためには、労働者が主体となること、自主性があること、労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的とすること、組織する団体またはその連合団体であること、が必要となります。
また、2条但書におきまして、使用者の利益代表者の加入を認めないこと、経理上の援助を受けないことが要件として規定されています。
労組法5条2項におきましては、5条2項に規定されている規約の必要的記載事項の要件を満たすことが要件として規定されています。
法的合組合
以上のすべてを満たしているものを法適合組合といい、法適合組合でなければ労組法上の団体交渉の主体として、保護されないことになります。
また、主体となりうる使用者は、使用者自身または使用者団体となります。
使用者には、労働者と労働契約を締結するものは当然含まれますが、これに限定されるものではありません。
具体的には、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、労組法上の使用者に当たる、と判断されています(朝日放送事件 最判平成7年2月28日)。
使用者に地位における判断事例
また、請負における受け入れ企業であっても、下請企業が全く形骸化しており、受け入れ企業が自己の労働者のように取扱い、賃金も実質的に決定して支払っていたという事案において、受け入れ企業が使用者の地位にあると判断したものもあります(阪神観光事件 最判昭和62年2月26日)。
さらには子会社と親会社との関係につきましても、子会社の経営を支配下に置いているなどの諸般の事情により判断されますが、基本的には同様の考え方が採用されていると考えられます。
裁判所の判断には、子会社の持株会社が管理規定で子会社の人事・賃金については親会社の承諾が必要である旨の規定が存在した事案におきまして、親会社が経営戦略的観点から子会社に対して行う管理・監督の域を超えるものではないとして、支配株主としての地位を超えて、雇用契約の当事者である子会社がその労働者の基本的な労働条件等を直接支配、決定するのと同視しうる程度に具体的に支配力、決定力を有していることはできない、と判断したものがあります(ブライト証券ほか事件 東京地判平成17年12月7日)。
団体行動の範囲
一般に、団体行動とは、憲法28条にいう団体行動を意味しており、労働組合が行う団体行動には、日常的な組合活動と、争議行為があります。
労組法1条2項は、その本文において、刑法第35条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であって、全項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする、としていますので、組合活動、争議行為の双方ともに刑事免責が定められていることになります。
争議行為に関する規定
そして、争議行為につきましては、労組法8条が民事免責を定めています。
労組法8条は正当な争議行為に関する規定ですので、組合活動におきましては、その民事責任につきまして、免責を受けるのかが問題となります。
この点に関しまして、法律規定をみてみますと、組合活動に関して直接に民事免責を定めた規定は存在しません。
しかし、組合活動にも民事免責の必要性は認められますし、そもそも憲法28条の団体行動権保障が、組合活動の民事免責をとくに除外したと解釈する根拠も見当たりませんので、組合活動についても民事免責の効果は肯定されています。
ビラ配布における裁判例
裁判所は、結論としては免責されたものもされなかったものも存在しますが、正当な組合活動には民事免責が及ぶとしている点は同じです。
具体的には、解雇反対のビラを配布した行為につき、組合活動に使用したとしてなされた解雇の事案におきまして、ビラでの抗議行動の呼びかけは、正当な組合活動として許される範囲のものであり、業務を妨害しようとの意図を持って抗議行動を呼びかけたと認めるに足る証拠もないとして、解雇を無効と判断したもの等があります(東京高判平成10年12月10日など)。
そして、この民事免責の効果は、労働契約上の問題だけではなく、使用者からの損害賠償責任につきましても同様に効果が及びます。
裁判所は、ビラ配布が、使用者の名誉、信用を毀損するものであるとしながらも、ビラ配布が労働組合の組合活動の一環として行われたところから、正当な組合活動として社会通念上許容される範囲内のものである場合には、違法性が阻却されると判断しています(エイアイジー・スター生命事件 東京地判平成17年3月28日)。
心構え
1.相手のペースに巻き込まれず、常にあるべき方向性を前提として、主体的な対応をとる。
= 長期的展望に立脚した確固たる経営判断の貫徹
健全な経営体が永続してこそ従業員の職場が確保される!!
2.時間と労力を惜しまない。
= 労務問題では実体だけではなく、
手続(話し合い等)それ自体が1つの価値とされることを理解する。
日本の労働法は、敗戦後マッカーサーが憲法を制定して以来、
米国以上に厳しい労働法ができあがっている。
3. 決して感情的にならず、論理的に対応することに徹する。
= 労働組合の特質をよく知る。
会社は合理的判断を旨としない限り、発展を望めないばかりか、先の見えない
経済状況を乗り切ることはできない。義理人情はもはや通用しない。
要は、大人の論理をどう組合員に理解してもらえるかである。
質疑に対する応答例
担当者の立場を問題としたとき
「私は、会社から交渉権限は与えられておりますが、処理権限はあたえれておりませんので、即答は差し控えさせて いただきます。」 |
「このような重要事項につき、私一存で決定せよ、という要請自体に無理があります。」 |
「重要事項であり、私の回答権原を逸脱するものでありますので、会社の責任ある決定を要する内容でありますので、次回までに慎重に検討致し、回答致します。」 |
「私では不満のご様子でありますが、不勉強で恐縮ですが、ご参考まで、処理権限を持たない者が団体交渉に出席することがイケナイとする、法律上、判例上の 根拠を教えて下さい。」 |
法律の議論を論じ回答を迫ったとき
「その点につきましては、顧問弁護士に法的見解を求め、労働法上の問題はないとの回答を得ております。」 |
「なお、私は、法律については全くの素人でありますので、法律の論理にかかわる回答は差し控えさせていただきます。 |
「もし、必要であれば、顧問弁護士を同席させご説明する用意がありますので、お申し出下さい。」 |
顧問弁護士に法的見解を求めると回答したことに対し、あるいは顧問弁護士の関与について異議を述べたとき
「当社の顧問弁護士は、一般民事事件においては◎◎市でも活動しており、労使関係事件においては、●●党系○○○○の案件で、会社側支店長が37時間に及び数十名の組合員に監禁された事案を処理しているほか、連合関係では、後に会長となる○○氏や▲▲部長○○○○氏が関わったあの食品製造会社▽▽▽▽株式会社の案件の解決のほか、札幌地域労組,北海道福祉ユニオンはもとより、札幌地区連合、パートユニオンとの労使問題をすべて円満解決した弁護士であり、会社としても、あるべきスジを通す弁護士であることを確信しております。」 |
必要以上に詳細な説明を求めたり、同じ質問を繰り返すとき
「先ほどもご説明申し上げましたとおり、・・・(リピート)。」 |
対応が無責任であるかのように迫られたとき
※(「法律について全くの素人、とは何事か。担当者がそれでよいのか。・・・」の類)
「私は、誠実かつ十分な対応をしていることを確信しております。私の対応に対するご意見は、貴殿の主観的な判断に過ぎませんし、そもそも、この場は、私の対応の是非を論じる場ではございません。他に何か建設的なご質問はございませんか。」 |
「組合が、会社の回答は納得できないと言ったら、会社はどうするのか。」
「ただ今の発言は、組合側としては話し合いの余地がないので団体交渉を打ち切るという趣旨のご発言でしょうか。」 |
会社側と致しましては、組合が提示された問題について、皆様のご理解をいただけるよう、これまでどおり必要な説明を行っていく所存であります。」 |
相当な時間が経過するも無意味な糾弾的発言が続くとき
「会社側と致しましては、実りある議論を行いたいと考えております。これまで、誠実に対応して参りましたが、そのような一方的な発言を続けられるのであれば、話し合いのしようがございません。」 |
その他
「仮定の質問にはご回答できません。」 |
「抽象的なご質問にはお答えできません。」 |
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ートラブル・紛争に直面した場合の経営者・管理者のスタンス
正当な理由が存在しない場合の団体交渉の拒否
労働組合法は、7条で使用者がしてはならない不当労働行為を定めており、その2号におきまして、使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと、を不当労働行為として禁じています。
この正当な理由につきましては、一般的には、労働組合が団体交渉の当事者として認められない場合、団体交渉事項が義務的団体交渉事項でない場合、交渉担当者に交渉権限がない場合、交渉の時間・手続・態様等のルールについて団体交渉拒否するような理由がある場合等が考えられます。
以下では具体的に問題となりうるものについての裁判例を検討します。
団体交渉拒否に関する事例
・労働組合側の不当な対応があった場合 要求自体が不当であるだけでは、団体交渉拒否の正当な理由とはなりませんが、団体交渉の場におきまして、暴力行為を行ったり、使用者の説明を妨害するような行為を行った場合におきましては、団体交渉拒否の正当な理由となります(大同印刷事件 福岡地判昭和62年11月24日)。
・団体交渉が行き詰った場合 団体交渉を行う際に、使用者には誠実団交義務がありますが、これは妥結義務までを要求するものではありませんので、団体交渉が行き詰った以上、それ以上の団体交渉の続行は無意味なものとしてこれを拒否したとしましても、正当な理由と認められます(黒川乳業事件 東京地判平成元年12月20日など)。
どのような段階になれば交渉が行き詰ったといえるのかは諸般の事情によりますが、誠実団交義務の履行がなされているか否かが重要な判断要素となると考えられています。
・組合員の解雇についてすでに長期間が経過している場合 裁判所は、解雇から6年の経過後に団体交渉が申し入れられた事案におきまして、地位確認訴訟が提起されていることや、解雇問題は相当期間を経ても解決の余地があることなどから、団体交渉拒否に正当な理由がないとしたものもありますし(日本鋼管事件 東京高判昭和57年10月7日)、解雇から8年10ヶ月の経過後に団体交渉が申し入れられた事案におきまして、被解雇者が以前に所属していた労働組合が十分に協議をしていたことを理由に、団体交渉の拒否に正当な理由があるとしたものもあり(三菱電機鎌倉製作所事件 東京地判昭和63年12月22日)、結果としては判断は分かれています。
前田尚一法律事務所の顧問企業の専務A氏とのエピソード
私がこれまで担当してきた事例を見ても、社長が従業員を解雇して、紛争に発展し、労働組合問題が発生し、収拾がつかなくなりかけたこともあります。
1990年代以降、集団的労使紛争も減少し、これに代わって、個別労働紛争の増加傾向が顕著であり、労働審判です。
しかし、労働者が解雇・雇止めに際して労働組合に加入し、その組合が行った解雇撤回などを求める団体交渉申入れについて、使用者が拒否するなど、個別労働紛争を原因とする集団的労働紛争が発生しています。
<前田尚一法律事務所の顧問企業の専務A氏とのエピソードを紹介します>
前田:お付き合いのきっかけは、もう十数年前になりますね。
A氏:私が専務に就任して間もない頃です。社長である父が、B氏を解雇したことがことの始まりでした。
そこに目を付けたのは父の側近であったC氏です。
営業成績を上げられず、父との関係が悪くなっていたC氏は、B氏の解雇を好機とみて音頭をとり、
他の従業員を引き入れ地元の上部団体に駆け込み労働組合を結成しました。
前田:専務が対応されましたね。
A氏:2回目の団体交渉から私一人で団体交渉に臨みました。上部団体の関係者も数名いました。
前田:大変だったでしょう。
A氏:毎日眠れませんでした。十数名から罵倒される日々でした。
前田:私がお手伝いをすることになったのはその頃でしたね。
A氏:組合側は私に一方的な要求を迫ってばかりでしたが、先生同席によって好転しました。
前田:そうは言っても、相手は戦術を変えてきましたよね。
A氏:さすがはその道のプロ。
「社長を出せ」とか「会社の決算書を出せ」などと本論とは関係のないことを要求してきましたが、
先生のおかげで社長が出席することも決算書を提出することもなく妥結できました。
前田:組合ができるとそれまでとは異なる対応が必要ですからね。
「社長を出せ」とか「会社の決算書を出せ」などという要求を、経営者が本気で白黒つけようとすると、経営者には意
外ですが、法律上は、負けになってしまいます。
A氏:何を決めるにも組合を通せと要求されます。昇給時期になると春闘で団交を繰り返す日々。
組合が突然ストを決行すると言い、そのシンパが何十人も会社の周りに集まったこともありました。
大変でしたが、先生とあらゆる場面を想定して、組合の思うままにはならないように対応できました。
前田:プロとして、経営者がひるむ方法は熟知している反面、想定外の手段をぶつけると、いつもパタンどおりに成功して
いるだけに、対応ができませんね。そこが、流れを大きく変える、まさにターンニングポイントですね。
そういえば、組合がいつもどおりの常道が功を奏せず、北海道労働委員会まで持ち込んだこともありましたね。
A氏:その時も組合側は「社長を出せ、決算書を出せ」と言い出したのに、相手側の要求に応じることなく、想定した内容
での解決ができました。先生の一挙一動を横で見ていて、さまざまな対処法があるものだと感心してしまいました。
前田:そうですね、北海道労働委員会は、労使間の紛争解決を図る北海道の行政機関。
しかし、経営者側からすると労働者側・労働組合側寄りで処理する傾向があります。
専務が対応した案件のときの労働組合のように、北海道労働委員会の常連もおり、北海道労働委員会もそれなりの
対応をするように思えます。別の案件で何度か、中央労働委員会に持ち込んだことがありますが、全く姿勢が違いま
す。中央労働委員会に持ち込んでも、労働事件に慣れない弁護士が知らない運用があるほか、北海道労働委員会で
実現できなかった結果を導くためのいくつかの有効な手段もありました。
ところで、現在の労使関係はいかがですか。
A氏:和解が成立してまもなく、B氏は、個人的理由で退職しました。もともと、労働組合が結成された原因が、B氏への 解雇通知だったのですが、おっしゃるとおり、状況をきちんと押さえ、緻密に対応しておけば、トラブルが発生して おらず、労働組合も結成されなかったことも理解できました。
C氏は、C氏以外の組合員全員が組合を脱退してまもなく、病気を理由の会社をさぼっていたことが明るみになり、
会社を退職していきました。
こうして組合は自然消滅しました。以降、労働問題は全く発生していません。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。