労働組合脱退の自由
組合員は,労働組合を脱退する自由を有しているということは,法律家の間では,常識の事柄であるといってよいと思います。
ところが,労働組合を脱退する自由が学者の議論となると,憲法論などの論争となる傾向があります。
しかし,現実の判例・裁判例を確認すると,出来事の実態は,労働組合が徴収する組合費の納付に疑問を持った組合員が,流れに任せて加入した労働組合を脱退したところ,労働組合側が争いを挑んできたといった事例が,大勢であるように思われます(中には,会社側の,第二組合結成に起因する事案も見られます。)。
また,一旦トラブル化すると,労働組合側は,いろいろ主張をしてくるようですが,多くは,反論のための主張にすぎないようです。
ここでは,以下に,実際的解決を図る上で,まずは組合員の脱退の自由の法的根拠に触れ,脱退の自由を制限する組合規約が原則無効であり,労働組合側がする組合員脱退に対する無効の主張もまた、原則的に無効であること,そして,この種のトラブルについて,当事務所がお手伝いできる内容をご説明いたします(なお,一定限度で有効性が認められており,労働組合が組合員の脱退を防止する手段となるユニオン・ショップ協定については,ここでは説明しません。)。
組合員の脱退の自由の法的根拠
判例では,組合員の脱退の自由の法的根拠を明示されていません。
しかし,最高裁は,組合員が,労働組合に服従し,ある程度の人格的な支配を及ぼされる立場に置かれ,個人としての自由を強度に制約されることとなることを容認する労働組合の統制権の法的根拠については,「労働組合の組合員は,組合がその目的を達成するために団体活動に参加することを予定してこれに加入するものであり,また,これから脱退する自由をも認められているのであるから,右目的に即した合理歴な範囲において組合の統制に服すべきことは,当然である。」とか(「国労広島地本組合費請求事件」最高裁昭50・11・28),「労働組合は,組合員に対する統制権の保持を法律上認められ,組合員はこれに服し,組合の決定した活動に加わり,組合費を納付するなどの義務を免れない立場に置かれるものであるが,それは,組合からの脱退の自由を前提として初めて容認されることである。」(「東芝組合二重加入事件」最高裁平19・2・2判決」)などとしています。
そこで,最高裁は,従業員の強制加入組織ではなく,労働者の自発的結合に基づく結社であるので,組合員の脱退の自由は,労働者の加入と同様に,団体の性質上当然の論理的帰結であるとする考え方を前提としているであるといわれています(後掲「総評全金協和精工支部事件」もこの前提は同旨です。)。
脱退の自由を制限する組合規約が無効とされる場合
そして,下級審の裁判例は,組合員の脱退に組合の機関の承認を要するものとする組合規約は脱退の自由を不当に制限するものとして無効であるとするのがほとんどのようです「日本鋼管鶴見製作所事件」東京高裁昭和61・12・27判決,「浅野宇龍炭鉱労組事件」札幌地裁昭26・2・27判決)。
また,争議中の脱退に関しては,権利の濫用であり効力を生じないという主張がしばしばされますが,これが容れられ裁判例はほとんどないとのことです。
脱退の自由を制限する組合規約が有効とされる場合
もっとも,裁判例を見ると,一定の手続をもって脱退の効力発生要件とすることは,それが実質的に脱退の自由を制限するものでない限り,合理的なものとして許され,有効であると解すべきであるとしています。
脱退の効力発生を中央執行委員会の確認又は承認の議決に係らしめるものではなく,を脱退の意思表示は中央執行委員会がこの意思を確認したときに効力を生ずる旨の組合規約は,違法とはいえないとしています。(「全逓神戸港支部事件」神戸地裁昭63・12・23判決)。
さらには,裁判例の中には,組合員の脱退が,もっぱら支部の団結を乱し会社に利益を与えるような目的・態様をもってなされたとみられても仕方のないものである場合には,権利の濫用として無効というべきであるとするものがあります(「総評全金協和精工支部事件」大阪地裁昭55・6・21決定)。
しかしながら,稀有な例というべきでしょう。
近時の最高裁は,従業員と使用者との間において従業員が特定の労働組合に所属し続けることを義務付ける内容の合意がされた場合において,この合意のうち,従業員に労働組合から脱退する権利をおよそ行使しないことを義務付けて脱退の効力そのものを生じさせないとする部分は,公序良俗に反し無効であるとしており(前掲「東芝組合二重加入事件」判決),ともかくも組合員の脱退を無効とした裁判例には問題があると考えれます。もっとも,この裁判例のような事案では,組合員に不法行為に基づく損害賠償責任が検討される余地はあるでしょう。
当事務所のできるお手伝い
当事務所は,労働問題については,使用者での対応のみを取扱分野としておりますが,そのため,「労働組合対策・団体交渉・不当労働行為」という分野で,対労働組合,対上部団体とすることが多く,労働組合からの脱退を希望される方々の要望にも応じれることになります。
もし,労働組合からの脱退について困っている方がおられたら,まずは無料でご相談に応じたいと思いますので,お電話ください。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。