最高裁判決が下る!!「同一労働同一賃金」いよいよ第2ステージへ
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正規・非正規の格差の「基準」
令和2年10月13日,二つの最高裁判決がありました(「大阪医科薬科大学事件」,「メトロコマース事件」)。
令和2年10月15日,もうひとつ最高裁判決がありました(「日本郵便事件(東京・大阪・佐賀)」)。
本件については別途、考察および解説記事を随時更新してまいります。
以下の記事についても本ページの記事と合わせてご覧ください。
▶「同一労働同一賃金」に関する5つの最高裁判決
ひとつは,「大阪医科薬科大学事件」
令和1(受)1055 地位確認等請求事件
令和2年10月13日 最高裁判所第三小法廷 判決 その他 大阪高等裁判所
判示事項
無期契約労働者に対して退職金を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされた事例
原審大阪高裁平成31年2月15日判決は,有期契約労働者(アルバイト職員)と無期契約労働者(正職員)の労働条件の相違のうち,賞与の不支給,夏期特別休暇の不付与,私傷病による欠勤中の賃金及び休職給の不支給が不合理であると
判断しました
もうひとつは,「メトロコマース事件」
令和1(受)1190 損害賠償等請求事件
令和2年10月13日 最高裁判所第三小法廷 判決 その他 東京高等裁判所
判示事項
無期契約労働者に対して退職金を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされた事例
原審東京高裁平成31年2月20日判決は,住宅手当,退職金,褒賞に関する相違については,労契法20条に違反するものであるとして,不法行為に基づき会社に損害賠償が命じ,本給および資格手当,賞与にかかる相違は労契法20条に違反しないと判断
そして,「日本郵便事件」(東京・大阪・佐賀)
〇佐賀分
平成30(受)1519 未払時間外手当金等請求控訴,同附帯控訴事件
令和2年10月15日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却 福岡高等裁判所
判示事項
無期契約労働者に対しては夏期休暇及び冬期休暇を与える一方で有期契約労働者に対してはこれを与えないという労働条件の相違が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たるとされた事例
〇東京分
令和1(受)777 地位確認等請求事件
令和2年10月15日 最高裁判所第一小法廷 判決 その他 東京高等裁判所
判示事項
私傷病による病気休暇として無期契約労働者に対して有給休暇を与える一方で有期契約労働者に対して無給の休暇のみを与えるという労働条件の相違が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たるとされた事例
〇大阪分
令和1(受)794 地位確認等請求事件
令和2年10月15日 最高裁判所第一小法廷 判決 その他 大阪高等裁判所
判示事項
無期契約労働者に対して年末年始勤務手当,年始期間の勤務に対する祝日給及び扶養手当を支給する一方で有期契約労働者に対してこれらを支給しないという労働条件の相違がそれぞれ労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たるとされた事例
第1ステージの復習
「長沢運輸事件」
平成28(受)2099 未払賃金等支払請求上告,同附帯上告事件
平成30年6月1日 最高裁判所第二小法廷 判決 その他 大阪高等裁判所
判示事項
1 有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合における当該有期契約労働者の労働条件の帰すう
有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合における当該有期契約労働者の労働条件の帰すう
2 労働契約法20条にいう「期間の定めがあることにより」の意義
3 労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」の意義
4 無期契約労働者に対して皆勤手当を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとされた事例
裁判要旨
1 有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合であっても,同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない。
2 労働契約法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいう。
3 労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう。
4 乗務員のうち無期契約労働者に対して皆勤手当を支給する一方で,有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,次の(1)~(3)など判示の事情の下においては,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる。
(1) 上記皆勤手当は,出勤する乗務員を確保する必要があることから,皆勤を奨励する趣旨で支給されるものである。
(2) 乗務員については,有期契約労働者と無期契約労働者の職務の内容が異ならない。
(3) 就業規則等において,有期契約労働者は会社の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがあるが,昇給しないことが原則であるとされている上,皆勤の事実を考慮して昇給が行われたとの事情もうかがわれない。
参照法条
旧・労働契約法20条
「ハマキュウレックス事件」
平成29(受)442 地位確認等請求事件
平成30年6月1日 最高裁判所第二小法廷 判決 その他 東京高等裁判所
判示事項
1 有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることと労働契約法20条にいう「その他の事情」
2 有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かについての判断の方法
3 無期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給する一方で定年退職後に再雇用された有期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違が,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないとされた事例
裁判要旨
1 有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは,当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において,労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たる。
2 有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かを判断するに当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきである。
3 乗務員である無期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給する一方で,定年退職後に再雇用された乗務員である有期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違は,両者の職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が同一である場合であっても,次の⑴~⑹など判示の事情の下においては,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらない。
⑴ 有期契約労働者に支給される基本賃金の額は,当該有期契約労働者の定年退職時における基本給の額を上回っている。
⑵ 有期契約労働者に支給される歩合給及び無期契約労働者に支給される能率給の額は,いずれもその乗務するバラセメントタンク車の種類に応じた係数を月稼働額に乗ずる方法によって計算するものとされ,歩合給に係る係数は,能率給に係る係数の約2倍から約3倍に設定されている。
⑶ 団体交渉を経て,有期契約労働者の基本賃金が増額され,歩合給に係る係数の一部が有期契約労働者に有利に変更されている。
⑷ 有期契約労働者の賃金体系は,乗務するバラセメントタンク車の種類に応じて額が定められる職務給を支給しない代わりに,前記⑴により収入の安定に配慮するとともに,前記⑵により労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫されたものである。
⑸ 有期契約労働者に支給された基本賃金及び歩合給を合計した金額並びに当該有期契約労働者の賃金に関する労働条件が無期契約労働者と同じであるとした場合に支払われることとなる基本給,能率給及び職務給を合計した金額を計算すると,前者の金額は後者の金額より少ないが,その差は約2%から約12%にとどまる。
⑹ 有期契約労働者は,一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることができる上,その報酬比例部分の支給が開始されるまでの間,調整給の支給を受けることができる。
参照法条
労働契約法20条
-- 「同一労働同一賃金」に関する二つの事件で,去る6月1日,最高裁判決が出ましたね。
前田 はい。契約社員であるドライバが提起した「長沢運輸」事件と,定年後継続雇用したドライバが提起した「ハマキュウレックス」事件で,期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止を定めた労働契約法20条の下で,正社員(有期契約労働者)と非正規社員(有期契約労働者)の待遇格差の是非を巡るものです。最高裁の判断は,いずれの事件においても,同一労働であっても,待遇格差があれば直ちに不合理となるのではなく,また,不合理であっても,労働条件が同一となる訳ではないが,賃金あるいは諸手当の支給の格差が不合理である場合は,損害賠償として請求できるという内容で,労働者らの諸手当のいくつかについての損害賠償請求を認めました。
-- 分かりずらいですね。現に,特に,「ハマキュウレックス」事件の原告は,「同じ仕事なのになぜ…」と,最高裁の判断に憤りを表明しているようです(6月2日北海道新聞朝刊)。
前田 訴訟ということになると,どうしても“勝ち負け”という,自分の主張がどこまで通ったかという点に目が行くのは,むしろ当然なことです。しかし,経営者側としては,最高裁の判断を厳粛に受け止めるべきです。
-- 具体的には
前田 まず,今までのように正社員と非正規社員の区別を活用し,雇用・賃金調整をすることが難しくなってきたことを認識しなければなりません。しかし,諸手当の支給の有無の不合理性といっても,機械的に判断できる基準を,最高裁が示した訳ではありません。それは,事件ごとに事後的な判断をする裁判所が決めるものではなく,社会の構造変化,労働環境の変容に左右されます。電通「過労自殺」事件で一気に労務トラブルが社会問題化し,政府が「働き方改革」を推進し,労働者側の「権利意識」が益々高揚していくでしょうから,不合理と判断される場面も拡大していくでしょう。
-- 企業は,早急に抜本的な対策をしなければなりませんね。
前田 一般論としてはそのとおりですが,待遇格差を是正するということは,正社員の待遇をそのままにして非正規社員の待遇をそれに近づけていくということですから,企業としては,収入が伸びないまま,経費がかさんでいくといことで,拙速にやり方を間違えると,収益構造が崩壊いしかねません。一方,経営者側で考えなければならないことは,それでもなお,ここ数年に急激に進行した構造的な「人手不足」にどのように対応しなければなりません。人材の確保・定着の観点からすると,むしろ企業側で,積極的に待遇格差を是正していかなければならない場面が到来しています。
-- 今はまだ,経費抑制の視点で考える経営者が多いように思えますが……。
前田 必ずしもそうではありません。当事務所では,最近,労働者側の権利意識が高揚する一方,“人手不足”が構造化した時代であることを踏まえた労務トラブルに関するセミナーを始めたところですが,募集すると,社会福祉法人の経営者に対するセミナーでは,20名を超える応募があり,これから実施する社会保険労務士の先生向けのセミナーでは,キャンセル待ちも含め,60名を超える応募が来ています。時代を見据えて一歩先を見ている方も多く,既に実施した前者の参加者の中には具体的対策についてのお手伝いをさせていただいている方もおられます。
-- どのように対応したら良いでしょう。
前田 時代を捉え,スピーディーに抜本的対策に着手しなければならないということに尽きます。しかし拙速に,お手軽な付け焼き刃の方法に飛びつくということもこれまで見られた場面ですので,現状をきちんと分析した上で,なすべきことを確認し,一歩一歩着実に進めていくというほか,王道はないでしょう。「同一労働同一賃金」の問題は,既に動き出している「有期契約社員の無期転換制度」,これから施策化していく「働き方改革」と共通の土台にあり,統一的な対処が必要です。ご相談いただければ,いつでもお手伝いいたします。
⇒ 最高裁判決が下る!!「同一労働同一賃金」(「長沢運輸事件」・「ハマキュウレックス事件」)
2019年4月1日から働き方改革関連法が順次施行
3つ目の柱 正社員と非正規社員の間の不合理な待遇が禁止されます!
施行:2020年4月1日~
*中小企業は,2021年4月1日~
不合理な待遇差を解消するための規定の整備
同一企業内における正社員と非正規社員の間にある不合理な待遇の差を無くし,どのような雇用形態を選択しても「納得」できるようにするとして,雇用形態に関わらない公正な待遇の確保の軸として不合理な待遇差を解消するための規定の整備がされた(パートタイマー労働法,労働契約法,労働者派遣法)。
つまり
企業は,これから,……
■今までは,
企業は,正社員(無期雇用フルタイム労働者)と待遇差を設け,人件費コストを安くした非正規社員(パートタイム労働者,有期雇用労働者,派遣労働者)を活用して,労働力需要に応じ,雇用調整,雇用の長期化・硬直化の回避してきた。
■これから,
改正法は,①基本給や賞与などあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けることを禁止するほか,②労働者に対する待遇に関する説明義務を強化し,③行政による助言・指導奈土や裁判外紛争解決手続(行政ADR)を整備することとした。
既に,判例(平成30年6月1日のハマキュウレックス事件,長澤運輸事件各判決)で事案に応じた判断に関連する考慮要素に関わる事情が示されていることに加え,「同一労働同一賃金ガイドライン」で原則となる考え方と具体例が示されているが,次の視点をもって,企業の実情を洗い出しながら,点検・検討し,慎重に改善に釣り組む必要がある。
①待遇格差の是正は,正社員の待遇をそのままにして,非正規社員の待遇をそれに近づけることにもなりかねず,経費がかさむ。拙速にやり方を間違えると収益構造が崩壊しかねない。
②同時に,人材の確保・定着の観点からすると,むしろ積極的に待遇格差を是正しなければならない場面が到来していく。
背景と課題
〇「働き方改革関連法」は,「残業時間の上限規制,」「同一労働同一賃金の実現」,「脱時間給制度」(高度プロフェッショナル制の創設等)の導入を取り込むもので,「日本の労働慣行は大きな転換点を迎えた。」といわれている。
〇そして,「企業は欧米と比べて低い水準にとどまる生産性の向上に取り組まなければ,新しい働き方の時代に成長が望めなくなる。」(日本経済新聞2018年6月30日)ともいわれている。
〇しかし,このように時代・環境を労働慣行の大きな転換期,迫られる生産性革命と大きく捉えつつも,曖昧な危機感に惑わされることなく,諸施策・問題従業員への具体的な対策・対応を,無駄なく漏れなくリーズナブルに実践していかなければならない。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。