年俸制
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年俸は、労働者に対して支払う賃金を年単位で決定する制度です。
年俸につきましては、成果主義・能力主義型の賃金制度の一つであり、労働関連法令には規定がありません。
賃金は、労働契約において不可欠の要素ですから、労働基準法15条1項により、賃金の決定や支払い方法等は書面で明示すべき労働条件となり、就業規則の作成・届出が義務付けられている場合は、絶対的必要的記載事項となります(労基則89条2号)。
そして、年俸制を導入するには、就業規則の変更が必要です。
この就業規則の変更に関しまして、結果として、賃金額が人により年により増減するという場合が多いため、その合理性が問題となりますが、肯定する裁判例が少なくないと考えられています。
例えば、変更について経営上の高度の必要性が認められ、生じうる増減額の幅、評価の基準・手続、経過措置等において相当な内容と認められ、組合との実質的な交渉を経ていると判断される事案で、合理性が肯定されています(ハクスイテック事件 大阪高判平成13年8月30日)。
年俸も労働契約における賃金に該当しますので、最低賃金法の制約を受けます(労働基準法28条)。
その支払方法につきましては、賃金に該当することから、毎月1回以上一定期日払の原則(労働基準法24条2項)の適用を受けます。
年俸制におきましても、時間外労働につき割増賃金の支払を免れる効果は持ちませんので、時間外労働につき割増賃金(労働基準法37条)の支払いが問題となります。
この点に関しまして、裁判所は、時間外手当も含めて月額賃金を決定した上で、就業規則において時間外労働手当は支給しない旨を定めていた場合でも、時間外労働を命じている以上、使用者は割増賃金を支払わなければならないとしたものがあります(システムワークス事件 大阪地判平成14年10月分25日)。
ですので、年俸制は、割増賃金を問題とする必要のない管理監督者(労働基準法41条2号)や裁量労働制の適用を受ける労働者と親和的な賃金制度と考えられます。
そして、割増賃金が支払われる場合には、通常の労働時間の賃金は、年俸額全体を年間の所定労働時間数で除し、算定されることになります(中山書店事件 東京地判平成19年3月26日)。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。