懲戒処分と私生活上の非行
多くの企業で、懲戒事由として、会社の名誉、体面、信用の毀損や犯罪行為一般を懲戒事由として掲げており、これらの条項を、従業員の私生活上の犯罪やその他の非行に適用する場合が多く見られます。
労働契約は、企業がその事業活動を円滑に遂行するに必要な限りでの規律秩序を根拠付けるにすぎず、労働者の私生活に対する使用者の一般的支配までを生ぜしめるものではありません。
しかし、現実には、従業員の私生活上の非行により、企業が批判を受けたり、社会的評価が低下することはあります。
そこで、労働者の私生活上の行為についても、就業規則により懲戒事由とされていることが多いです。
不名誉な行為、私生活上の非行行為の典型は犯罪行為ですが、犯罪行為であっても、そのすべてが懲戒処分として認められるわけではありません。
従業員の私生活上の言動は、事業活動に直接関連を有するもの及び企業の社会的評価の毀損をもたらすもののみが企業秩序維持のための懲戒の対象となりうるにすぎません。
裁判所は、一般的には、このような見地から就業規則の包括的条項を限定的に解釈し、私生活上の非行に対する懲戒権の発動を厳しく判断しています。
例えば、「従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務妨害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から総合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない」として、示威行動の中で逮捕起訴された従業員に対し、そのような行為が会社の体面を著しく汚したとは認められないとしたものもあります(日本鋼管事件 最判昭和49年3月15日)。
従業員の犯罪行為の懲戒処分の可否及び程度を判断するためには、上記のような諸事情を総合的に判断して、会社の社会的評価に対してどの程度の影響が生じたかという観点が必要となると考えられます。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。