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「同一労働同一賃金」に関する5つの最高裁判決

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令和2年10月、「同一労働同一賃金」に関する5つの最高裁判決が出されました。

 いずれも、次の改正前の労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下では、「旧・労働契約法」といいます。)での判断です。

 平成31(2019)年4月1日から「働き方改革関連法」が順次施行されていますが、その3つ目の柱で正社員と非正規社員の間の不合理な待遇が禁止されたこと(施行:令和2(2020)年4月1日~ *中小企業は、令和3(2021)年4月1日~)で、大きな影響を与えるといわれています。

【参考】旧・労働契約法

  (契約の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)

  第二十条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容および当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容および配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 

 1 令和2年10月の最高裁判決!!「同一労働同一賃金」いよいよ第2ステージか??

 

 まず、令和2年10月13日、15日の、「同一労働同一賃金」に関する5つの最高裁判決の要点をまとめてみましょう。

 

 (1)「大阪医科薬科大学事件」

 最高裁令和2年10月13日第三小法廷判決

(令和1(受)1055  地位確認等請求事件)

 

 本件は、有期契約労働者(アルバイト職員)と無期契約労働者(正社員)との間で、賞与の不支給、私傷病(業務外の疾病)による欠勤中の賃金等の相違があったという事案で、最高裁は、無期契約労働者に対して賞与を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が旧・労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと判断しました。

 

 原審・大阪高裁は、有期契約労働者と無期契約労働者の賞与の不支給、私傷病による欠勤中の賃金の不支給等が不合理であると判断していました(平成31年2月15日判決)。

 

 (2)「メトロコマース事件」

 最高裁令和2年10月13日第三小法廷判決

(令和1(受)1190  損害賠償等請求事件)

 

 最高裁は、無期契約労働者(正社員)に対して退職金を支給する一方で有期契約労働者(契約社員)に対してこれを支給しないという労働条件の相違が労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの)20条にいう不合理と認められるものに当たらないと判断しました。

 

 原審・東京高裁は、有期契約労働者に対する不支給が不合理であると判断していました(平成31年2月20日判決)。

 

 (3)「日本郵便事件」(佐賀)

 最高裁令和2年10月15日第一小法廷判決(原審 福岡高裁)

(平成30(受)1519 未払時間外手当金等請求控訴、同附帯控訴事件)

 

 最高裁は、無期契約労働者に対しては夏期休暇及び冬期休暇を与える一方で有期契約労働者に対してはこれを与えないという労働条件の相違が旧・労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると判断しました。

 

 (4)「日本郵便事件」(東京)

 最高裁令和2年10月15日第一小法廷判決(原審 東京高裁)

(令和1(受)777 地位確認等請求事件)

 最高裁は、私傷病による病気休暇として無期契約労働者に対して有給休暇を与える一方で有期契約労働者に対して無給の休暇のみを与えるという労働条件の相違が旧・労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると判断しました。

 

 (5)「日本郵便事件」(大阪)

 最高裁令和2年10月15日第一小法廷判決(原審 大阪高裁)

(令和1(受)794  地位確認等請求事件)

 最高裁は、無期契約労働者に対して年末年始勤務手当年始期間の勤務に対する祝日給及び扶養手当を支給する一方で有期契約労働者に対してこれらを支給しないという労働条件の相違がそれぞれ旧・労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると判断しました。

 

2 第1ステージの復習

(1)最高裁判決

 一連の「働き方改革関連法」が成立する少し前の平成30年6月1日、最高裁は、「同一労働同一賃金」について、二つの判決を出しました。

  ア 「長沢運輸事件」

最高裁平成30年6月1日第二小法廷判決(原審・大阪高裁)

(平成28(受)2099  未払賃金等支払請求上告、同附帯上告事件)

 

  イ 「ハマキュウレックス事件」

最高裁平成30年6月1日第二小法廷判決(原審・東京高裁)

平成29(受)442  地位確認等請求事件

 

 契約社員であるドライバが提起した「長沢運輸」事件と、定年後継続雇用したドライバが提起した「ハマキュウレックス」事件で、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止を定めた労働契約法20条の下で、正社員(有期契約労働者)と非正規社員(有期契約労働者)の待遇格差の是非を巡るものです。最高裁の判断は、いずれの事件においても、同一労働であっても、待遇格差があれば直ちに不合理となるのではなく、また、不合理であっても、労働条件が同一となる訳ではないが、賃金あるいは諸手当の支給の格差が不合理である場合は、損害賠償として請求できるという内容で、労働者らの諸手当のいくつかについての損害賠償請求を認めたのです。

 

(2)「同一労働同一賃金ガイドライン」の公表

 行政は、二つの判決を受けて、いわゆる「同一労働同一賃金ガイドライン」(平成30年12月28日付け・「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(厚生労働省告示第430号))で、かなり詳細で、具体的な内容であり、我々にとっては、いわばマニュアルともいうべきものが公表されていたのです。

 

3 令和2年10月の一連の最高裁判決で、賞与及び退職金については初めて最高裁が判断することとなり、諸手当などの労働条件についても具体性が高まったということがいえるとは思われます。

 

 しかし、2で説明したとおり、第1ステージでも、「働き方改革関連法」が成立する以前で既に、最高裁は、「長沢運輸事件」・「ハマキュウレックス事件」判決で、諸手当については一定の基準を示し、また、行政(厚生労働省は)は、かなり詳細で具体的な内容の「同一労働同一賃金ガイドライン」が公表されており、それ以降に判決された各原審・高裁判決が、最高裁によって破棄・変更されたのです。

 つまり、最高裁・行政によってが既に一定の基準などを確立された時点以降においてさえ、これ以上高い法律的専門知識はないと思われている裁判所・裁判官の考えの全部又は一部が、否定されることとなったのです。

 ここでは、いくら基準が具体化・明確化されても、実際に企業において発生するトラブル・紛争は、個別具体的なものであるため、解決の面でも、予防の面でも一定の有用性は認められるものの、各企業ごとに現状を踏まえた対処を事前・事後に行わなければならないということです。

 

 そして、有期契約労働者(契約社員、アルバイト職員など)と無期契約労働者(正社員)との間の賞与・退職金、諸手当などの区別・差異が不合理であるとしても、その改善は容易ではありません。

 有期契約労働者の待遇を、無期契約労働者の待遇と同じにすればよいという単純なものでもありません。その分、無期契約労働者の待遇を維持したまま、有期契約労働者の待遇を合わせるということは、言うまでもなく、そのまま経費が増額するということで、まずは、ゼロサムで物事を考えていかなければならない企業にとって、現実的ではありません。

 

 コロナ禍が長期化して先が見えない状況の中、さまざまな“想定外”に遭遇するリスクが高まっています。このような経営環境の中で、企業は、きちんと足元に目を向け、あるべき姿を追求し、実現していく必要があります。

 

 

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