「能力不足」を理由とする解雇[セガ・エンタープライゼス事件]:札幌の弁護士が使用者側の対応・心構えを相談・アドバイス
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「能力不足」を理由とする解雇
東京地裁平成11年10月15日決定[セガ・エンタープライゼス事件]
就業規則の「労働能力が劣り,向上の見込みがない」との解雇条項による解雇が無効であるとされた事例
事案の概要
□会社Yが,平成2年入社の大学院卒正社員であるXを,人事部採用課,人材開発部人材教育課,CS品質保証部ソフ卜検査課等に配置の後,所属未定,特定業務のない「パソナルーム」に配置していたが,人事考課平均値が3点台であるXを含む56名に退職を勧告し,Xのみが応じなかったところ,就業規則に定める解雇事由たる「労働能率が劣り,向上の見込みがないと認めたとき」に当たるとして普通解雇したため,Xがこの解雇を無効であるとして,地位保全および賃金仮払いの仮処分を求めた事案。
□本件は,リス卜ラ解雇が相次いでいるころ,「労働能力が低い者」の大幅な人員整理(退職)を始めた業界大手Y社(従業員数約3500名)において,退職勧告に応じない(高学歴の)Xに対し,人事考課の平均的な水準に達していないことをもって就業規則の「労働能率が劣り,向上の見込みがない」場合に当たるとして解雇に及んだケースとして注目を引いていた。
裁判所が認定した事実
□裁判所は,
①Xは,人材開発部人材教育課において,的確な業務遂行ができなかった結果,企画制作部企画制作一課に配置転換させられたこと
②同課では,海外の外注管理を担当できる程度の英語力を備えていなかったこと
③外注先から苦情が出て,国内の外注管理業務から外されたこと
④アルバイト従業員の雇用事務,労務管理についても高い評価は得られなかったこと
⑤平成10年のXの3回の人事考課の結果は,それぞれ3,3,2で,いずれも下位10パーセント未満の考課順位であり,Xのように平均が三であった従業員は,約3500名の従業員のうち200名であったことからすると,Xの業務遂行,平均的な程度に達していなかったこと
を認めた。
□また,裁判所は,Yの査定は相当程度に客観的で,Xに対し恣意的に行われたとはいえないとして,Xの能力が平均点以上であったとするX側の主張を排斥した。
裁判所の判断
□Xが従業員として平均的な水準に達していなかったとしても,Yは就業規則所定の「労働能率が劣り,向上の見込みがないと認めたとき」を適用してXを解雇したのであるから,これに該当しない限り解雇は認められないとして,就業規則の該当性を検討し,就業規則の別の項で定める解雇事由はいずれも「極めて限定的な場合」に限っているから,この規定についても,同様に限定的に解すべきであり,該当するといえるためには,平均的な水準に達していないというだけでは不十分で,「著しく労働能率が劣り,しかも向上の見込みがないとき」でなければならないとして,Yにおける人事考課は相対評価であって絶対評価ではないから,直ちにこれに当たるとはいえないとした。
□結論として,Yが主張する「積極性がない」,「協調性がない」等の抽象的理由には事実の裏づけがないこと,またYが,教育,指導によりXの労働能率を向上させる余地があったのにこれを怠った事実を加えて,本件解雇を権利の濫用に当たり無効と判断
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。