転籍
転籍とは、労働者が事故の雇用先の企業から多の企業へ籍を移して当該他企業の業務に従事することをいいます。 転籍は転籍元との労働契約を終了させ、転籍先と労働契約を締結することになりますから、通常は、転籍元への復帰は予定されていません。 転籍は、転籍元との労働契約を合意解約し、新たに転籍先と労働契約を締結する場合と、転籍元から転籍先に労働契約上の使用者の地位が譲渡される場合があります。 上記合意解約型であれば、労働契約の解約及び新契約の締結の双方について同意が必要となりますし、譲渡型であったとしても、使用者としての地位の譲渡につきまして、労働者の同意を必要とします(民法625条1項)。 前者の場合であれば、転籍元との合意解約は転籍先との労働契約の締結を停止条件としてなされることになりますから、転籍先が受入れ拒否をすれば、合意解約も効力を生じません(生協イーコープ・下馬生協事件 東京地判平成5年6月11日)。 後者の場合も、労働者の転籍承諾前に転籍先が転籍拒否を決定していれば、転籍承諾の合意は無効となり、転籍元との労働契約は存続します(日立製作所事件 東京高判昭和43年8月9日)。 転籍命令につきましては、労働者のいかなる同意が必要かが問題となりますが、新労働契約の締結による転籍の場合には、その締結についての事前の同意というのは考えにくいですが、使用者の地位の譲渡による場合には、理論上は、譲渡についての労働者の承諾は事前にもなし得ます。 この点に関しまして、身上書に転籍先企業での勤務が可能と記載するなど労働者の意思が明確であり、転籍元への復帰が日常的に行われているなど、出向に近い形態で行われていた転籍の事案に関しまして、採用時の包括的同意で足りるとした裁判例もあります(日立精機事件 千葉地判昭和56年5月25日)。 転籍後の労働条件につきましては、転籍は、転籍元との労働契約が終了し、転籍先と新たに労働契約を締結するものですので、転籍後は、使用者である転籍先の基準により労働条件が規律されることになります。しかし、転籍が、使用者の地位の譲渡にあたる場合には、転籍元の労働条件が転籍先に包括的に譲渡されることになりますから、労働条件の不利益変更は、労働者の同意がない限り、原則、許されないこととなると考えられます。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。