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傷病休職事由の消滅

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傷病休職事由の消滅(職務の不特定の場合)(1)

 傷病休職制度により休職していた労働者の復職については、傷病から治癒したことが必要となります。

   治癒すれば復職となりますし、治癒せずに休職期間が満了すれば、自然退職または解雇となります。

   そこで、傷病休職期間満了による退職・解雇が問題となる場合、治癒の意味とその判断基準が問題となります。

   原則としては、治癒といえるためには、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したことを要するとされてきました(平仙レース事件  浦和地判昭和40年12月16日)。

   この点に関しましては、裁判所は、労働契約上、職種や職務内容が特定されているか否かで、治癒の判断基準を異にしていると考えられます。

職種・職務が特定されていない場合

   この場合、他の業務への配置可能性を検討した上で治癒の判断をすべきとするのが、近時の裁判所の判断です。

   例としては、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ、かつ、その提供を申し出ているならば、債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当(片山組事件判決  最判平成10年4月9日)としたり、他の軽易な業務であれば従事することができ、当該軽易な職務へ配置転換することが現実的に可能であったり、当初は軽易な職務に就かせれば、程なく従前の職務を通常に行うことができると予測できるといった場合、復職を認めるのが相当(独立行政法人N事件 東京地判平成16年3月26日)、と判断しています。

 

   では、どこまで配置可能性を考える必要があるのでしょうか。

   この点に関して、他の業務においても健常者と同様の労務提供を要求すれば、労務提供が可能な業務はありえなくなるとした上で、復職を求める労働者の能力に応じた職務を分担させることまで求め、配置可能な業務の範囲をかなり広く解したものも存在します(東海旅客鉄道事件 大阪地判平成11年10月4日)。

   しかし、従前業務の遂行可能性がないこと、及び、労働者が配置可能な業務があることを指摘していないことから、他の業務についての遂行可能性を否定したものもありますし(西濃シェンカー事件 東京地判平成平成22年3月18日)、総合職として採用された労働者の復職可能性を検討すべき職種は、総合職であり、総合職の中での他職種の配置可能性の有無を判断すべきとしたものもあります(伊藤忠商事事件 東京地判平成25年1月31日)。

 

傷病休職事由の消滅(職務特定の場合+医師の診断)(2)

 傷病休職制度により休職していた職務が特定されている労働者の治癒の意味と判断基準、および、職務特定・不特定双方に関わる治癒の判断に際しての医師の診断について

 

   職種・職務内容が特定されている事案での裁判所の判断につきましては、治癒とは、原則として従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復したときをいう、としたものがあります(昭和電工事件  千葉地判昭和60年5月31日)。

   しかし、直ちに従前業務に復帰できないとしても、比較的短期間に従前の業務に復帰可能である場合には、短期間の復帰準備期間を提供したり、教育的措置を取ったりすること等が信義則上求められるとして、このような手段をとらずに解雇することはできないとするもの(全日本空輸事件  大阪地判平成11年10月18日)、従前の業務を通常の程度に遂行できなくなった場合には、原則として、労働契約上の債務の本旨に従った履行の提供ができない状況にあるとしながらも、他に現実に配置可能な部署ないし担当できる業務が存在し、会社の経営上もその業務を担当させることにそれほど問題がないときは、債務の本旨に従った履行の提供ができない状況にあるとはいえないとしたものもあります(カントラ事件 大阪高判平成14年6月19日)。

   つまり、職務が特定されている場合には、休職期間満了時点において、雇用契約上特定された労務の提供がなしえない以上、治癒とはいえないとも考えられますが、休職期間満了時の回復が本来業務につく程度には回復していなくても、健康配慮義務の一環として、可能な限り軽減業務に就かせるという義務が認定される可能性があります

医師の判断

   休職は就業規則や労働協約に基づき、使用者が発令します。ですので、休職の消滅事由である治癒の判断も最終的には使用者がなすべきものです(K社事件  東京地判平成平成11年17年2月18日)。

   しかし、傷病の治癒については、復職の申し出に対し、医師の受診を命じることなく、復職を拒み続けた対応について、正当とは言い難いとして退職扱いが無効とされた事案(B学園事件  大阪地判地決平成17年4月8日)など、医師の診断を軽視したことについては、裁判所は厳しい指摘をしていると考えられます。

   ただし、主治医の診断は、専門家の判断として重要なものとされてはいますが、職務内容に詳しくないこと、また、労働者からの希望が診断書に反映されることも考えられることから、絶対的なものではないと考えらえています。

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