降格(職能資格・職務等級の引下げ)
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職能資格や職務等級の引下げにつきましては、基本給の引下げを伴うことが通常でありますから、労働契約上の地位の変更をもたらすことになります。 職能資格の引下げにつきましては、資格・等級を企業組織内での技能・経験の積み重ねによる職務遂行能力とする職務資格制度におきましては、通常は一度獲得した職務遂行能力である職能資格の低下は予定されていません。 ですので、労働者との合意により契約内容を変更する場合以外は、就業規則等に明確に規定しておかなければ、一方的な資格の引下げはできないことになります(アーク証券事件 東京地判平成12年1月31日)。 そして、役職の引下げにより職能資格も引下げられる場合も、基本給の低下を伴い職能資格の引下げと同様の効果が生じることから、職能資格の引下げと同様に考えられています。 また、職能資格の引下げについては、権利濫用(3条5項)も問題となります。 具体的には、業務上の必要性の有無や程度、労働者の不利益の有無や程度、不当な動機の有無や程度などが考慮されますが、基本給の減額は労働者に重大な不利益を及ぼし得る事情ですので、減額の幅は重要視されると考えられています。 職能等級の引下げにつきましても、降級がなされれば、基本給が減額されるのが一般的ですから、就業規則等に降級があり得る旨が規定されている必要があるとされています(コナミデジタルエンタテインメント事件 東京高判平成23年12月27日)。 そして、降級が許容されるためには、決定過程に合理性があること、その過程が従業員に告知され言い分を聞くなどの公正な手続が存することが必要であるとされています(ACニールセン・コーポレーション事件 東京地判平成16年3月31日)。 就業規則等に定めがあれば、その該当性、権利濫用の有無が審査され、職能資格の引下げの事案同様、基本給の減額をもたらす降級の場合は厳格に判断されると考えられます。 降級につきましても、就業規則上の降級事由に該当すると認めるに足りる的確な証拠が存在しないとして、使用者の裁量権の範囲を逸脱したものであるから無効と判断された事案があります(マッキャンエリクソン事件 東京高判平成19年2月22日)。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。