残業問題が会社を潰す!:札幌の弁護士が使用者側の対応・心構えを相談・アドバイス
残業問題と法律
企業活動をしていくにあたって,社員に残業をしてもらわなければならない場面は当然あります。社員の熱意に甘えて,サービス残業をしてもらうことがあるかもしれないが,後の法的トラブルを回避するためには,残業時間をきちんと把握して,残業代をしっかり払うことが大切です。
法律は,労働時間の上限を定めています(労働基準法32条)。1週間について40時間を超えてはならず(労働基準法32条1項),1日について8時間を超えてはならないとされています(労働基準法32条2項)。残業は,こうした法律で定める労働時間の例外を定めるものですから,相応の手続が必要になります。手続を取らずに残業をさせると,労働基準法違反となり,6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金という罰則がありますから,注意が必要です(労働基準法119条1号,同法32条)。
まず,社員に残業をさせるには,経営者が,労働者の過半数を組織する労働組合がある場合はその労働組合との間で,そのような労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者との間で,残業に関する合意をしなければなりません(労働基準法36条1項)。しかも,合意をするだけでは足りず,その合意は書面によってなされなければなりませんし,さらにその書面を行政に届け出る必要があります(同項)。こうして,はじめて従業員に残業をしてもらうことが可能となります。この合意のことを,「三六協定」(サブロク協定と読みます。労働基準法「36」条に根拠があることに由来があります。)と呼びます。合意がなされれば,その効力は全労働者に及びますので,労働者の過半数を組織する労働組合に所属していない労働者にも残業をさせることができます。
残業をさせた場合は,残業時間に応じて,2割5分以上5割以下の割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条1項)。残業時間の管理を杜撰に行っていると,後で未払残業代を一括して請求されることもありますから,注意が必要です。
残業代請求 エピソード
――最近、残業代請求をよく耳にします。
前田 過払い金バブルで、消費者金融を相手に稼いでいた弁護士たちが、次の市場として精力を傾け始めたのが要因ともい
われています。残業代は、最低でも2割5分割増で計算されますが、未払いで争われた場合は法律上、損害利息とし
て5%から14・6%が加算されます。残業代と同額の付加金の支払いを命じられる場合もあり、過払い請求の増加
が、サラ金を弱体化させたように、企業にとって、存亡にかかわる大問題になります。
――会社は、事前に対応策を講じていたのでは。
前田 残業代を請求された経営者は、「残業代は支給しないを同意していた」「基本給に残業代を含めて金額を決めてい
た」「管理職手当・精勤手当等の手当に残業代が含まれている」「歩合給を払っている」「年俸制にしている」「管
理監督者である」「時間外に仕事を命じていない」「休憩していて仕事をしていない」などと反論します。しかし裁
判では、ほとんど通用しません。従業員が同意した書面を作っていても同じです。
――一斉に残業代が請求されたら、大変なことになりますね。
前田 時効があるので2年分は支払わなければなりません。1度総額払った場合を試算してみるといいと思います。
中小企業でも、1000万円を超えてしまうこともあります。
――実例はどうなっていますか。
前田 日本マクドナルドが直営店の店長、いわゆる“名ばかり管理職”に残業代を払わないのを違法とした裁判例は、ご存じ
の方も多いと思います。最近では、深夜労働ならば、本当の管理監督者であっても「割増賃金請求が可能である」と
最高裁は明言しています。
――ほかにはどんな例が。
前田 仮眠時間や、空き時間にパソコンで遊んだ場合も労働時間に含まれるとした事例、旅行添乗員は、事業場外みなし労
働時間制の適用を受けないとして、約2300万円の残業代の支払いが命じられた事例、タイムカードの始業時刻か
ら就業時刻まですべてが労働時間と算定された事例、労働者自身が作成した超勤時間整理簿をもとに、残業時間を認
定した事例などがあります。事件ごとに個性や特殊性があり、専門的な見地から、具体的な状況を詳細に検討し、落
としどころを探っていかなければならないのです。社員の退社をきっかけに会社内に労働組合ができ、労使間に緊張
関係が会社全体に及んでしまうことも想定されます。闘うことを熟知した専門家にきちんと相談する必要がありま
す。使用者側の労働問題については、無料で相談を受けていますので、ぜひご利用ください。
残業代対策の極意「定額」「みなし」の落とし穴
-- 先生,うちの会社も残業問題が悩みだったんですが,専門のコンサルタントに勧められ,定額残業代制度を導入し,一気に解決しました。
前田 定額残業代(固定残業手当)制度は,日本マグドナルド事件など「名ばかり管理職」の問題が脚光を帯びてから利用することが多くなった仕組みのようです。しかし,法律で定められた計算による割増賃金額を下回らない限りで適法と認められるだけですよ。
-- えっ,残業時間数にかかわらず定額を決めて支払えばよいと思ってました…。
前田 道内ではホテルの事例があります(札幌高裁平成24年10月19日判決。「ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件」)。裁判所は,定額残業代制度の有効性自体は認めましたが,手当を95時間分の時間外賃金であるとする会社の主張を斥け,月45時間分の残業の対価であり,月45時間を超えた残業及び深夜残業に対しては,法律に従った時間外賃金を支払わなければならないと判断しました。紙面の関係で詳しくは説明できませんが,裁判所は,判断の前提となる事情として,むしろ会社は従業員との間で,本来法的に許されない無制限な定額時間外賃金に関する合意をしていた,法律で上限とされている時間外労働を義務付ける手段として利用されたとなどと経営者側の非難すべき面を認定しています。
-- 実は,うちの会社では,外回りばかりの営業が多いので,コンサルタントには,「事業場外労働のみなし制」の導入を勧められているのですが……。
前田 外で働くため労働時間の算定が難しい場合に、通常必要とされる時間を「みなし時間」としてあらかじめ設定しておく仕組みですね。まさか,社長,導入すれば残業代が一切発生しないと考えているのではないでしょうね。
-- えっ,売上げを上げれば歩合給もあるのに,残業代が発生するのですか?
前田 もちろんです。例えば,最高裁判所は,旅行会社の主催する募集型企画旅行の添乗業務であっても,事業場外労働のみなし労働時間制を適用できないとしています(平成26年1月24日判決。「阪急トラベルサポート残業代等請求事件」)。
-- これじゃあ,どんな方策をとっても,問題は解決しないじゃないですか…。
前田 いいえ。そもそも労働法は労働者に有利にできているのです。経営者としては納得できないことであって,この点を押さえておかないと,労務管理の重要性を無視するブラック企業と評価されかねません。そして,法律上の制度の意味をきちんと理解したうえ,自社の実情を具体的に分析し制度を採用しなければなりません。まさか,コンサルタントから,タイムカード制を導入して上手く運用すれば,問題が解決するなどと勧められていませんよね。
-- えっ、なぜ分かるんですか?
前田 専門と称して怪しいコンサルタントが徘徊しています。気を付けてくださいね。どうも社長の会社は,労務管理関係全体を洗い直す必要がありそうですね。
少しでも不安がよぎったら遠慮なくお電話ください(0120・48・1744)。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。