労災補償(精神障害)
労働者におけるうつ病などの精神障害は、近年、労災認定申請が急増しています。
精神障害については、現在では、心理的負荷による精神障害として、労規則上、業務上疾病として列挙されています(労規則35条、別表第1の2)。
行政実務では、その認定基準として、環境由来の心理的負荷と個体側の反応性・脆弱性との関係で決まるとされ、心理的負荷が強ければ個体側の脆弱性が小さくても、脆弱性が大きければ心理的負荷が弱くても精神障害が生じうるとの理論(いわゆるストレスー脆弱性理論)が採用されていると考えられています。
精神障害の業務起因性の認定要件としては、精神疾患が業務との関連で発病する可能性のある一定の精神疾患にあたり、発病前のおおむね6ヶ月間に業務による強い心理的負荷が認められ、業務以外の心理的負荷及び個体側要因により発病したと認められないこと、が挙げられています。
心理的負荷については、同種の労働者、つまり、職種、職場における立場・職責、年齢、経験等が類似する労働者が、一般的にはどう受け止めるかという観点から評価されます。
心理的負荷の強度の判断や、業務以外の心理的負荷については、「心理的による精神障害の認定基準について」における別表で摘示されています。
これらの点について、裁判所の判断についてみますと、業務外認定を事実認定や評価の違いにより取り消した裁判例は見受けられるものの、行政実務の判断枠組みがおおむね支持されていると考えられます。
業務と精神障害との間の相当因果関係については、ストレスー脆弱性理論によって、判断されていますし、心理的負荷については、当該労働者と同種の平均的労働者が、具体的状況における心理的負荷が一般に精神障害を発病させる危険性を有しているかで判断していると考えられます。
また、精神障害から自殺にまで至ってしまった場合、一般的には労働者の自殺は労災保険給付の支給対象とされていませんが、業務により精神障害を発症していた場合には、精神障害によって正常な認識、行動選択能力、自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったものと推定され、業務起因性が認められる場合があります。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。