労働協約(規範的効力)
労働協約は、労働組合法14条により、労働組合と使用者またはその団体との間の労働条件その他に関する協定であって、書面に作成され、両当事者が署名または記名押印したものと定義されます。
労働協約は、協約当事者間の契約ですが、労働条件その他の労働者の待遇の基準を設定して、一定期間保障する機能と、労働組合と使用者間の諸関係に関するルールを設定する機能がありますので、労働組合法16条により、規範的効力が与えられています。
この規範的効力の内容は、労働協約中の労働条件その他労働者の待遇に関する基準について、個々の労働契約を直接規律するというものですので、労働協約に違反する労働契約を無効にし、労働契約の内容を直接定める効力となります。
労働協約を締結している労働組合から離脱した労働者や、協約終了後の組合員の労働契約の内容については、労働協約の規範的効力は、労働協約の一定部分に労働組合法が付与した法規範的効力と考えられますので、規範的効力は労働契約をその外から規律するものであり、その労働協約がその締結時や労働者の採用時などに個々の労働者に提示されていないと、労働契約の内容にはならないということになります。
この規範的効力で問題となるのは、労働協約で定められた労働条件が最低基準か否かです。最低基準でない場合は、労働協約より有利な労働契約上の定めも無効となります。
労働協約より有利な労働契約上の定めを有効とすることを有利性の原則といいますが、これが採用されるか否かは国によっても異なり、我が国においては、法律上は全くの白紙の立場でありますので、個々の労働協約の趣旨に委ねられていると考えられます。
次に問題となるのは、労働協約で労働者に不利益や義務を課すことができるか、という協約自治の限界についてです。
この問題は、上記有利性原則が認められるか否かとも関連があり、裁判例では、否定されたものがあります(大阪白急タクシー事件 大阪地決昭和53年3月1日など)が、近年では、不利益変更の効力を原則的に肯定しつつ、特段の不合理性を吟味する立場がとられており、最高裁も、労働組合の目的を逸脱して締結されたものとはいえないとして、規範的効力を肯定しています(朝日火災海上保険事件 最判平成9年3月27日)。
この規範的効力により、労働協約中の労働条件その他の労働者の待遇に違反する労働契約は無効となり、無効となった部分は労働協約で定められた基準によることになり、労働契約に定めがない部分についても、同様となります(労働組合法16条)。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。