女性の母性保護-1
以前は、労働基準法において、女性労働者は、男性労働者と比べ生理的・体力的に弱い面があるとの認識から、広範な保護規定が存在していましたが、労働基準法は、女性労働者の均等な機会待遇の確保という観点から、母性保護規定を強化し、一般的女性保護規定については削除されています。
つまり、女性労働者について、母性機能を保護することによる実質的な機会均等を推進しつつ、一般的な労働条件の取り扱いについては、男女を同一の基盤に立たせる、ということがなされてきたといえます。
具体的に撤廃された一般的保護規定につきましては、時間外労働・休日労働制限規定、深夜業禁止規定の撤廃があり、これにより、満18歳以上の女性労働者は、男性労働者と同様に労働に従事することが可能となっています。
そして、一般的保護規定が削除されたことにより、労働生活や家庭生活に配慮した制度的手当等が規定されています。
具体的には、育児介護休業法による深夜業の免除を請求する権利(育介休法19条、20条)、深夜業に従事する女性の通勤や業務遂行の際の安全確保、子の養育や家族の介護等に関する配慮、健康診断等の事項についての事業主の行動指針の提示、労働者が育児や介護責任を負っている場合の時間外労働の上限基準の設定などがあります。
母性機能保護につきましては、⑴母性機能に有害な業務への就業禁止、⑵産前産後の保護、⑶育児期間、等が存在します。
⑴につきましては、妊産婦を、妊娠・出産・哺育などに有害な業務に就業させてはならないということが規定されており(労基法64条の3第1項)、これは妊産婦以外の女性にも準用されています(2項)。
⑵につきましては、本人の請求を待って産前の休業が与えられ、本人の請求の有無を問わず産後の休養が与えられる(強制休業)ことになっています(労基法65条1項、2項)。
そして、産前産後の休業請求または休業を理由とする不利益取扱いは、男女雇用機会均等法により禁止されています(労基法9条3項)。
また、妊娠中の女性が請求した場合は、使用者は、他の簡易な業務に転換させなければならないとされています(労基法65条3項)。これは業務内容だけでなく、労働時間帯の変更も含むと考えられています。
さらに、妊産婦の請求による変形労働時間制の適用制限、時間外労働・休日労働・深夜労働の禁止の規定も存在します。
⑶につきましては、育児期間は、条件を満たす女性による請求により与えなければならないもので、労働協約や就業規則の規定により有給とされていない限り、無給となります。
前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。