業務起因性と業務遂行性:札幌の弁護士が使用者側の対応・心構えを相談・アドバイス
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業務災害について、事故により労働者に生じた負傷・死亡が業務上起こったものといえるかを判断するにあたっては、業務遂行性と業務起因性に分けて判断するのが一般的です。
行政実務では、業務上とは、業務起因性を意味し、業務起因性の要件が直接の原因となった事故の業務遂行性であるとされていると考えられます。
業務起因性とは、業務または業務行為を含めて、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したものと経験則上認められることをいう、とされています。
業務遂行性とは、労働者が事業主の支配ないし管理下にある中でという意味である、とされています。
つまり、業務遂行性がなければ、そもそも業務起因性はないということになります。
業務遂行性が認められる災害については、(1)事業場内で作業に従事中の災害である場合、(2)事業主の支配下・管理下にあるものの業務には従事していない場合、(3)事業主の支配下にあるがその管理下を離れて業務に従事している場合、に分けられます。
そして、これらの場合には、業務遂行性が認められるということになります。
そうしますと、事業場内での休憩中や、始業前・始業後の事業内での行動、事業場外で労働している場合や出張中の災害であっても、業務遂行性は認められるということになります。
業務起因性については、上記(1)業務遂行性が認められる作業中の災害であれば、自然現象や外部の力が働いている場合、本人の私的逸脱行為・規律違反行為などによる場合を除き、原則として業務起因性は認められることとなります。
ただし、上記(2)業務遂行性が認められる休憩中等の災害については、労働時間中であれば業務起因性は認められますが、業務起因性が認められない場合もあります。
裁判例では、恋愛感情を抱く同僚により、出勤した際に刺殺された事案で、上司が、加害者の態度に対する被害者の苦情を加害者に伝えたこと、同僚労働者に恋愛感情から転じた憎悪を持たれるのは、業務内容から、当該被害者の業務への従事に内在する危険であること、などから業務起因性を肯定したものがあります(尼崎労基署長[園田競馬場]事件 大阪高判平成24年12月25日)。
上記(3)については危険に晒される範囲が広いことから、業務起因性は広く認められています。
裁判例では、宿泊施設で酔って階段から転落した事案で、業務起因性を認めたものがあります(大分労基署長事件 福岡高判平成5年4月28日)。
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前田尚一法律事務所 代表弁護士
北海道岩見沢市出身。北海道札幌北高等学校・北海道大学法学部卒。
私は、さまざまな訴訟に取り組むとともに、顧問弁護士としては、直接自分自身で常時30社を超える企業を担当しながら、30年を超える弁護士経験と実績を積んできました。
使用者側弁護士として取り組んできた労働・労務・労使問題は、企業法務として注力している主要分野のひとつです。安易・拙速な妥協が災いしてしまった企業の依頼を受け、札幌高等裁判所あるいは北海道労働委員会では埒が明かない事案を、最高裁判所、中央労働委員会まで持ち込み、高裁判決を破棄してもらったり、勝訴的和解を成立させた事例もあります。