電通の過労自殺をどう捉える??:札幌の弁護士が使用者側の対応・心構えを相談・アドバイス

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-- 広告大手の電通で起きた新入社員の過労自殺の事件ですが、労災認定からわずか3か月で書類送検されました。異例のスピード捜査ですね。

 

前田 でも,異例のスピード捜査の中で,「ブラック企業」とレッテル付けでの非難が一気に高まった挙げ句,事件は風化してしまいます。
報道はいつも,読者受けするわかりやすい表面的な部分ばかりを強調するので,良いこと悪いことを問わず,なかなか本当の問題点に目を向けることができません。報道されない以上,本当の事実はわかりませんが,経営者が,他山の石として会社経営に役立たせようとするのであれば,事実に囚われず,一つのモデルとして,想像を働かせ,仮説を立てながら,問答して見るのも,効果的です。

 

-- 自社なりに問答する上で,どのような視点を補うべきでしょうか。

 

前田 巷では,残業代請求が大流行ですが,電通が書類送検された容疑は長時間労働自体が違法だとされているもので,前者とは違う場面であることをきちんと押さえる必要があります。。

 

-- でも,違法は違法なのではないですか。

 

前田 そのとおりです。しかし,「違法残業」といっても,働いた分の残業代を支払わないという場面と残業代を払ったからといって働かせすぎはいけないということは局面が違います。局面をきちんと捉えて考えないと,結局,
 他山の石としなければならない企業としては,本当の問題点にフォーカスしなければ,自社の経営に活かすことはできません。

 

-- 具体的には。

 

前田 まず,従業員自体が,少なくとも当初は,長時間労働を受け入れていた可能性があることを想定しなければなりません。むしろ,仕事に生きがい,やりがいを感じていたり,同期に負けたくないという上昇志向が強い場合は,自主的に長時間労働に赴く傾向があるでしょう。特に,エリートが集まる企業では,その傾向が強いと推察されます。

 

-- でも,自分の仕事に関する価値観でそう行動するというのなら,本人の考えにまかせるしかないようにも思いますが……。

 

前田 問題は,当初はそうであっても,本人が,どの段階まで自分をコントロールできるかという点にあります。自己抑制は本人が思っている以上に早く効かなくなります。仕事に没頭するうちに自分をコントロールできなくなります。自我が崩壊していくことを止めれなくなります。

場面は違いますが,数年前,大阪地検特捜部で,主任検事が証拠改ざんをしたという事件がありましたが,おそらく本人は無罪の被疑者を有罪にしようと目論んだ訳ではないでしょう。経験上,間違いなく有罪であるはずの被疑者を野に放つことはできない,という使命感に燃えた結果ということだと想像できます。
 生きがい,やりがい,使命感というものは,いつの間にか本人にはコントロールできない魔物となるのです。

 

-- なるほど。そうならないように,組織自体が歯止めをかけないと,常に再発を孕んだ職場ということになるわけですね。

 

前田 もし,歯止めをかけるどころか,企業において,そのような状況を容認し,仕事での生きがい,やりがい,同期に負けたくないという上昇志向を,徹底的に活用しようとすると,悲劇が繰り返されることになります。そして,さらに問題となるのは,企業によっては,そのような仕組みが既に構造化されており,放っておけば,自動的に動いているということです。

 

-- 単に,一定時間に消灯時間を設けるとか,表面的な対応を積み重ねても,改善しないということですね。また,「抜本的に改善しなければならない。」と抽象的に叫ぶだけでも,何も解決しませんね。まして,「許可しないのに,勝手に残っていた。」などと反論する経営者がおりますが,論外ですね。

 

前田 そのとおりです。ことはいうまでもありません。経営者は構造に目を向け,悪弊を具体的な改善しなければなりません。そうしないと,見せかけの繁栄の下部では,破滅に向かいかねないということです。具体的にどのように改善し,経営を安定化させるかは,激変する社会の中で,人手不足にさらされながら,徹底して業務を強化しなければならないことを踏まえ,会社毎に、現実を直視し個別具体的に考え,実践していかなければならないことですので,抽象論はこのぐらいにしておきましょう。

 

(財界さっぽろ2017年2月号の原稿です。)

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