解雇は要注意。深手を負う前に弁護士に相談を。:札幌の弁護士が使用者側の対応・心構えを相談・アドバイス

-- 先生,いよいよA君を解雇することにしましたよ。

前田 えっ,聞いてませんけど……。

-- 能力不足や勤務態度の不良の従業員を解雇して当たり前でしょう。

前田 そんな簡単な話ではありませんよ。「病気で元の業務を遂行できなくとも配置可能な業務を検討すべきである」とか,「平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり,著しく労働能力が劣り,しかも向上の見込みがないという場合でなければならない」などとして解雇を無効とした裁判例は珍しくなく,能力不足や勤務態度の不良という理由で従業員を解雇する場合のハードルは,極めて高いものです。業務命令違反の労働者に対する4回のけん責(戒告)後の解雇を無効とした裁判例もあります。社長は,耐えられますか。

-- …………。

前田 解雇が有効であっても,張旅費の着服で懲戒解雇された従業員からの退職金の支払い請求に対し,約540万円の支払と認めた道内の事例もあります(札幌地裁平成20年5月19日判決)。経営者の立場で考えると,裁判所の判断は複雑怪奇というほかないかもしれませんが,現実は現実として受け止めなければなりません。

-- でも,解雇に代えて,従業員に退職願を提出させるなど「退職勧奨」の方法など,手はあるんじゃないですか。

前田 誰でも思い付く方法は,失敗も多いのです。現に,道内でも,町立病院に勤務する臨床検査技師の退職の意思表示の撤回が有効であるとされた事例があります(旭川地裁平成25年9月17日判決)。病院側の対応を見てみると,失策ですね。労使問題では,残業手当問題対策として採用されたのに失敗した例として,日本マグドナルド事件の「管理監督者制度」は有名ですしが,道内でも,「固定残業手当制度」についてのザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件(札幌高裁平成24年10月19日判決)がありますが,解雇でも一見お手軽な便法が失敗する例が少なくないのです。

-- なるほど。持久戦をするほかないのですね。

前田 いや,これも,経営者に間違いが多いところです。社員に自主退職をさせるよう仕向けるためのいわば軟禁室を「パソナルーム」と呼びますが,最近も,一人だけで別室に配置され,パイプ椅子と長机で執務し,歓迎会・忘年会にも呼ばれず,朝会・会議にも呼ばれず,1日100件の飛び込みによる新規顧客開拓をノルマとされていたという事案で,150万円の慰謝料が認められた事例があります(大阪地裁平成27年4月24日判決)。

-- それじゃ,経営者は何も手立てがないじゃないですか。
前田 いえ,道内の事例を多く取り上げ,使用者側に,リスクの多い場面を紹介してきましたが,実は,有利不利を問わず,ルール化するのは難しいというのが実情なのです。お手軽本に簡潔に紹介された判例などに飛びつくのは危険この上ないのです。法律,裁判は,経営者の考えとはギャップがあるという厳然たる事実を受け入れた上で,個別具体的に考え抜いて対応することが重要です。そもそも,労働契約書や修行規則など基本的な事柄において,初歩的な不備があるということも多いのです。

 

(2015年11月の記事です。)

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