自社に適切な労働時間対策を。マジックワードにご用心:札幌の弁護士が使用者側の対応・心構えを相談・アドバイス

A社長 日本経済新聞の「働き方改革 さびつくルール」という連載で紹介されている,トヨタが導入を目指している裁量労働的に柔軟に働ける新制度が目に入りました(2017年9月12日付け朝刊「(上)成果働く時間で計れず」)。《実際の残業時間に関係なく毎月45時間分の手当を支給。超過分も支払うが,時給になるべく縛られずに働けるようにする。》とのことで,人手不足の私の会社でも活用できそうです。

 

前田 《トヨタ流ホワイトカラーエグゼンプション(脱時間給制度)の実現》とか,《成果に応じて賃金を支払う脱時間給の考え方を先取りする》などと挑発的な記述もされており,働く時間ではなく成果に応じて賃金が支払われる制度を意味する,「脱時間給制度」などといったマジック・ワードが使われると,飛びつきたくなるのも当然かもしれません。しかし,「ホワイトカラーエグゼンプション」というのは,年収1075万円以上の金融ディーラーやコンサルタントらを労働時間の規制対象から外そうとする目論見であり,2015年の法案提出以来,「残業代ゼロ法案」との強い批判を浴びて塩漬けとなってきたものの,そもそも,その対象が限定的です。

 

A社長 でも,紙面で紹介されている《「残業時間の制約で作業をやめなくてはいけないのはもどかしい」。開発現場の社員からはこんな声も出ていた。》には,共感できます。

前田 この連載でも少し解説しましたが(第57回『電通の過労自殺をどう捉えるか』),電通過労自殺事件を社会問題として捉えた考え方の底流は,従来の「ブラック企業」に対する非難・批判と同様の方向であり,そもそも法定労働時間を超えた労働自体を社会悪とするものです。社会の風潮のベクトルの方向は,共感できるという声とは,違っていることにお気づきでしょうか。

 

A社長 ……。

前田 紙面でも「成果に応じて賃金を支払う脱時間給の考え方を先取りする」と表する一方,紙面でも,弁護士による「固定残業代とコアタイム無しのフレックスタイム勤務という既存制度の合わせ技」との解説もされています。前段の美辞麗句に囚われず,既存制度の合わせ技であることを具体的に掘り下げ,自社の実態と運用に照らし,自社なりの制度設計をしなければなりません。

 

A社長 具体的には?

前田 固定残業代(定額残業代)は,「名ばかり管理職」を認めない裁判所の判断(日本マクドナルド事件)が下されてから流行したものですが,定額を支払えば,それ以上に残業代を支払わなくてもよいというものではありません。それどころか,活用の仕方を間違えると,支払いがそもそも残業の対価として認められないうえ,逆に割増賃金を計算するための算定基礎に組み込まれてしまい,ダブルパンチの事態が発生することさえあります。これを活用する意味がどこにあるのかをきちんと理解・検討する必要があります。主体的で柔軟な労働時間制度としては,フレックスタイム制ばかりではなく,「事業場外労働のみなし制」,「裁量労働制」もあり,職種によっては,その活用も検討に値します。また,職種ではなく,事業の性質から考えると,法定労働時間を弾力化できる制度としては「変形労働時間制」があります。交代制労働(シフト制)の必要とか,時期的な繁簡への対応が必要な業種について有用です。

 いずれの制度も,職種,業種によって有用な活用が考えられますが,法律で要件と効果が定められています。限界を確認して有用性を具体的に把握した上,就業規則の整備,労使協定の締結など制度に応じた法律の要件を満たし,法律の予定した運用をしていく必要があります。旅行業者の主催する募集型企画旅行の添乗業務であっても,「事業場外労働のみなし制」を適用できないとした最高裁判所の判決もあります。

 

A社長 既存の制度でも活用次第で有用なものがあることはよくわかりましたが,実際に活用するのはなかなか面倒ですね。

 

前田 経営者は安易な解決手段に飛びついたり,手段の都合の良いことばかりに目を向けて採用し,ことを拗らせてしまうことも多いです。これからも,気になる制度が目に入ったら,まずはご相談下さい。もちろん,抜本的に制度を検討するということであれば,いつでもお手伝いしますよ。

 

(2017年11月の記事です。)

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