パワハラによるうつ病発症・休職等を理由として損害賠償請求された事例【サントリホールディングスほか事件】

【関連ページ】

カスハラ(カスタマーハラスメント)ーメンタルヘルス対策を組み込んだ
クレーマー処理システムの構築
弁護士による従業員支援プログラム(EAP)ーメンタルヘルス対策の一考
パワハラ防止の法制化ーメンタルヘルス問題を引き起こさないための改革
実際のトラブル・紛争の予防・解決については
こちらをどうぞ。

サントリーホールディングスほか事件

DV

 

 パワハラによるうつ病発症・休職等を理由として損害賠償請求された事例として,「サントリーホールディングスほか事件」(第一審:東京地裁平成26年7月31日判決・労働判例1107号55頁,第二審:東京高裁平成27年1月28日判決・公式判例集未登載)があります。

 

 労働法の大御所である学者によると,

「上司の部下に対するパワハラが当該部下のうつ病を惹起したことについて,不法行為責任を認める裁判例が生じている。たとえば,上司が,指示・注意に応えられず作業むすを繰り返す部下に対し,「新人社員以下だ,もうまかせられない」「なんでわからない,お前は馬鹿だ」等叱責し,部下がうつ病になって,休職し療養したいと希望したのに対しても,今休職になれば他の部署に異動はできなくなると述べて休職の先延ばしをしたことについて,部下に対する注意・指導として許容される限度を超える不法行為と認められた(サントリーホールディングスほか事件ー東京地判平26・7・31労判999号54頁)。」

と紹介されています(菅野和夫『労働法 第十二版』(2019年 弘文堂)260頁)。

 

 また,最前線で活躍中のある学者は,

「これらの裁判例等からすると,業務上の指導にかかわる言動については,ⓐ正当な業務上の必要性に基づいてなされたものであるか,ⓑ業務上の必要性に基づくものであったとしても相手方の人格(その職業的キャリア,企業内での立場,人間としての存在など)に配慮しそれを必要以上に抑圧するものでなかったかという観点から,社会通念上許容される範囲内の指導か(それを超える違法な言動か)が判断されるものと解される。」

と述べ,注で,

「サントリーホールディングスほか事件・東京高判平成27・1・28労経速2284号7頁[「新人社員以下だ。もう任せられない」,「おまえは馬鹿」等の言動を許容される限度を超えるものと判断]など参照」

と控訴審判決を引用しています(水町勇一郎『詳解 労働法』(2019年 東京大学出版会)280頁)。

 

 しかし,このような要約された記述ですと,そのような判断がされて当然のように見えますが,事案を要約しすぎた事例紹介は,実践では役に立ちません。また,示された判断基準にしても,抽象的にすぎては,とても実際の現場で役に立つものとは思えません。
 パワハラの基準については,がかなり実際的なものとして進化してきてはおりますが,基本的には,基準に囚われた対策は上手く行かないというのが,私の考えです。

 

 事案は,上記のようにすっきりまとめれるものではなく,本件の事実関係は,良いか悪いかはともかく,よくありがち,起こりがちなもので,具体的内容をじっくりと確認しておく価値がありそうです。
 本件の事実関係は,実際に,判決文にあたって,確認しておいてください。

 

 被告会社のグループ再編といった事情で,複数の会社が登場するなどで分かりにくいので,勝手ながら簡略化して,ご紹介します。正確な事実関係などは,判決文にあたってください。

サントリホールディングほか事件の事案の概要[簡略化]

紛争の概要

 A社の社員であったB,Bの上司であったCからパワハラを受けたことによりうつ病の診断を受けて休職を余儀なくされるなどし,また,A社のコンプライアンス室長であったDがCのパワハラ行為に対して適切な対応をとらなかったことによりBの精神的苦痛を拡大させたとして,CおよびDには不法行為(民法709条,719条1項)が成立すると主張するとともに,A社にはBに対する良好な作業環境を形成等すべき職場環境保持義務違反を理由とした債務不履行およびCの使用者であること等を理由とした不法行為(民法715条1項,719条1項)が成立すると主張して,A社らに対し損害賠償金等の連帯支払いを求めた事案

争  点

 ① Cの不法行為の有無
 ② Dの不法行為の有無
 ③ A社の責任の有無
 ④ 損害の有無およびその額
 ⑤ 各損害賠償債務の消滅時効の成否
 ⑥ (略)

事実関係

1 当事者
(1)A社は,清涼飲料,食料品,酒類等の製造および販売の事業等を営む会社である。
(2)Bは,平成9年4月1日にA社に入社し,18年4月1日からは,A社の調達開発部企画グループ(「企画グループ」)に配属され,この部署で,購買予算と実績の管理等を内容とする業務に従事していた。
(3)Cは,平成18年4月1日以降,企画グループの長として,Bの上司の立場にあった者である。
(4)Dは,23年当時,A社のコンプライアンス室の室長であった者である。

2 Bの勤務状況とCグループ長の対応
(1)Bは,平成18年6月頃,Cグループ長に対し,17年度の営業物品の購買金額を分類した資料を提出したが,Cグループ長がみたところでは不備の多いものであった。
 そこで,Cグループ長はBに対し改善の指示を行ったが,Bは,Cグループ長の指示どおりの資料を提出することはせず,その後もCグループ長が複数回にわたり指導したが,Bは改善に取り組もうとしなかった。
(2)また,平成18年7月頃,他の部署から,Cグループ長に対し,Bの勤務態度に問題があるので改善指導をしてほしいとの要望がされた。
(3)平成18年11月,Cグループ長は,Bに対し,営業物品の購買金額低減のためのリバースオークションについて分析等を指示した。
 しかし,Bの分析結果の報告についてCグループ長は,納得できない不十分なものと判断したため,Cグループ長は集計方法や問題点を確認するよう指示したが,BはCグループ長の指示どおりの資料を提出しなかった。
(4)また,A社では,平成18年12月頃,購買予算と実績の管理にかかる報告業務を効率化するために,この業務にかかる購買予算・実績管理システム(「予実システム」)を開発することを決定し,それを企画グループが担当することになり,Bがその主任となった。
 予実システムの開発作業に入って以降の19年2月6日,Bは,予実システムの開発は無理だといい出したため,Cグループ長がBに対し指導した。
(5)その後,納品期日の4月5日における予実システムの稼働開始に間に合わせる必要があったところ,Bの集計ミスなどにより確認作業に時間を要することなどがあったため,Cグループ長のBに対する注意指導の回数が増えたり,その注意指導の程度が多少厳しいものになったりすることもあった。
このようなことがあってBは,次第にCグループ長から注意を受けること自体が苦痛となり,精神的に追い詰められていった。

3 Bの鬱病の診断
 Bは,平成19年4月11日,E病院を受診(初診)したところ,うつ病に罹患しており,今後約3か月の自宅療養を要する旨の診断を受け,診断書を交付された。診察の際,Bは,医師に対して,仕事をやる自信がなく惨めな感じがすること,また,Cグループ長から納期を守らないことなどで叱責されたこと,「新入社員以下だ。もう任せられない」などといわれたことなどを話した。
 Bは,Cグループ長に対し,診断書を提出して休職を願い出たところ,Cグループ長から3か月の休養については有給休暇で消化してくれといわれ,Bが隣の部署に異動する予定であるが,3か月の休みを取るならば異動の話は白紙に戻さざるを得ず,Cグループ長の下で仕事を続けることになる,異動ができるかどうか返答するようにといわれた。
 Bが,Cグループ長から依頼のあったパーティーでの飲食物提供の手伝いについて,E病院に受診した際に,他の人に代わってもらいたいと伝えたところ,Cグループ長からかなり不満顔でいろいろいわれた旨の話をした。

4 Bの休職・復帰などとD室長の対応
(1)Bは,平成19年6月1日,企画グループからF部に異動したが,Bの精神状況は快方に向かわず,その後,Bが産業医の診察を受けた結果,2か月間の休職をしたほうがよいとの判断が示された。
 そこで,Bは,7月11日頃,E病院を受診して再度診断書を作成してもらい,A社にこの診断書を提出して8月末まで休暇を取ることにした。
 Bは,有給休暇を取得するなどしたうえで,平成20年7月31日までA社を休職した。

(2)Bは,平成20年8月1日からA社に復帰し,21年4月1日付でA社に転籍したが,A社が設けている内部通報制度を利用し,Cグループ長からBが受けたと考えているパワハラ行為を通報し,A社に対し,Cグループ長に対する責任追及と再発防止策の検討を求めた。
 Dコンプライアンス室室長は,23年6月30日以降,Bとの間で合計6回の面談やメールのやり取りを行った。また,D室長は,7月13日から8月1日まで,当時Cグループ長の周囲で勤務していた5人の者に対して,当時の状況を面談またはメールにて事情聴取した。
 なお,D室長は,Bとの面談において,Cグループ長の行為がパワハラに当たらないという理由について口頭で説明した。また,Cグループ長との面談において,Cグループ長のBに対する注意指導について行き過ぎがあった等反省に至らせた。

 第一審,第二審ともに,会社の責任を認め(争点③),上司であるCグループ長の不法行為を認めましたが(争点①),コンプライアンス室の室長Dの不法行為は否定しました(争点②)。

 

 

 そして,損害額については,原告の合計2424万6488円の請求に対し,第一審は297万円を,第二審は165万円の連帯支払を命じました。第二審も,事実関係自体では第一審とそう大きくは変わらず,主として,次のような評価の部分の違いが,損害額の認定に影響を与えたものと考えられます。

 

「第一審原告は,鬱病を発症して1年以上の休業を余儀なくされ,復職後も通院を継続し,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づき障害等級2級の認定を受けるなど,精神的不調が続いている反面,第一審被告丙による不法行為は,第一審原告に対し,「新入社員以下だ。もう任せられない。」,「何で分からない。おまえは馬鹿。」と発言し,あるいは第一審原告が本件診断書を提出して休職を願い出た際,3箇月の休みを取ると異動の話を白紙に戻さざるを得ない旨を告げるなどしたというもので,部下に対する業務に関する叱責の行き過ぎや,精神的不調を訴える部下への対応が不適切であったというものにとどまり,悪質性が高いとはいえず,第一審原告が鬱病を発症し,精神的不調が続いていることについては,第一審原告の素因が寄与している面が大きいこと,第一審原告が平成20年8月に復職した後,時間外労働や所外勤務も行うなど,勤務状況は順調であり,精神状態が一定程度回復した状況が窺われること(なお,第一審原告は平成26年2月以降休職しているが,当該休職は,現在の上司による勤務評価に対する不満を契機とするものと認められ(甲35),本件との関連性は認められない。)などを考慮すると,第一審原告の精神的損害に対する慰謝料は150万円と認めるのが相当である。」

 

0120-41-744 受付時間 24時間受付 相談料無料

メール受付

ご相談の流れ