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“白黒つけない”パワハラ対策:札幌の弁護士が使用者側の対応・心構えを相談・アドバイス

-- 「パワハラ」(パワー・ハラスメント)が,「セクハラ」と同様,一般に認知された言葉となりました。加害者本人ばかりではなく,会社も損害賠償責任を負うことになるのですね。
前田 はい。使用者責任(民法715条)や職場環境配慮義務違反(労働契約法5条)に基づきます。
-- 理屈は一応わかるのですが,何がパワハラなのか今ひとつよくわかりません。
前田 厚生労働省が24年1月公表した「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」で,「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」と。この報告で示された「パワハラの6つの行為類型」や,人事院が平成22年1月政府内で通知した「『パワー・ハラスメント』を起こさないために注意すべき言動例について」で,行為類型と具体的な言動を上げています。

-- ネットで検索してみましたが,「そりゃそうでしょう」とうことばかりです。裁判例をみても,社会的に「パワハラ」と評される場合であっても,損害賠償義務が発生する場合とそうでない場合があるとして,基準に言及していますが,「…等を総合考慮のうえ,…職務上の地位・権限を逸脱・濫用して,社会通念に照らした客観的な見地から見て,通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような……行為をしたと評価される場合に限り……」(東京地裁平成24年3月9日判決)などと抽象論を述べるばかりで,困惑しています。

前田 そうでしょうね。パワハラも,セクハラと同様,ハラスメントとして他者の人格を傷つける行為のひとつと捉えられます。法律の中に登場する用語ではありませんが,違法対象を,性的要素を伴わない場面に広げる中で作られた言葉で,元来曖昧です。ちなみに,職場であっても,上司によるものではないとか,陰湿な非有形力によるものが,「パワハラ」と区別された「モラハラ」(モラル・ハラスメント)として社会問題化しており,さらに違法対象は拡大されつつあります。裁判所は,社会問題化されたことを扱うとはいえ,その本来の役割は,実際に訴訟となった具体的な特定の事案について,事後的な客観的判断によったと称して,白黒をつけることです。事例の集積は確かに役に立ちますが,あくまでリフォームされた事案として参考になるもので,そもそも裁判所に現場で日々起こることの明確な判断基準を期待する方が間違っているのです。

-- それじゃ予防も解決もできないじゃないですか。

前田 いいえ。むしろ,企業の現場では,白黒つけようとする発想を捨てたほうがよいです。単に違法かどうかという面ばかりに目を奪われず,加害者対被害者という単純な図式で捉えられ,一人歩きしかねないトラブルをどう回避するかということです。ハラスメントは,被害者側の主観に大きく左右されることは否定できません。例えばセクハラの場合,同じ言動であっても,実際の上司からと,キムタクからとでは,不快さの程度が異なるのが現実です。また,「ハイパーセンシティブ・ビクティム(過激な被害者)」と呼ばれる問題もあります。パワハラ問題には,社員のメンタルヘルス問題にもつながり易く,最悪でも金銭的解決が期待できる未払い残業問題とは違った解決の難しさがあります。

-- 損害賠償義務を負わない場合であっても,企業のリスクとなるということですね。

前田 はい。加害者対被害者という単純な図式が社会で一人歩きすると,ブラック企業との烙印を押されてしまいかねません。人手不足が現に社会現象となりつつある中,悪評は,さらに人材採用を妨げることとなりかねません。また,この単純な図式が未解決のまま放置されると,不満が蓄積し,従業員全体の働く意欲を失わせてしまったりすることになりかねません。経済の回復が期待される今日,大きな企業リスクといわなければなりません。
-- 当社では,労務コンサルタントの指導を受けながら,従業員対象にセミナーを実施したり,相談窓口を設置したりして,事前措置に万全を期しているのですが……。
前田 いよいよ本音が出てきましたね。部長,パワハラ問題が現実に発生したのではないですか。その解決も含め,根本的に考え方を改める必要がありそうですね。

講演会やセミナーで講師を務めたとき,「同じことを言われても,キムタクに言われると何かウキウキするが,斜め横の席にいる●●課長に言われると身の毛がよだつ!!それが,セクハラ事件の特徴です」(「キムタク」の部分は,対象者によって変更となります。)などとお話しすると,ほとんどの方が喜ばれます。キムタクではなく,●●課長のグループに入りそうな方も、一緒になって笑っておられます。ウケ狙いと思われがちです。しかし,実は,結論であり,パワハラも同様で(事例が参考になります)。
感情的・心理的要因が大きく影響するハラスメント(嫌がらせ)の,パワハラも同様です。

-- 素人向けの解説書を見ると,パワハラ対策を事前の予防措置と事後(問題発生後)の解決策に分類して,詳しい説明が展開されています。

前田 事前の予防・防止対策が重要なのはもちろんですが,中小企業ですと,多くの場合,既に問題が発生しています。だからこそ,気になって解説書を買ってみたり,誰かに相談してみたりするのです。

-- ……
前田 例えば,従業員全般を対象にセミナー、研修会を開催するとしても,加害者(となりうる人)と被害者(となりうる人)を一同に集めて実施しても意味がないことはすぐ理解できると思います。でもそのようなセミナーなどよく行われているようです。また,急ぎ相談窓口を設置しても,担当者が信頼できない人であったり,勉強不足であればかえって問題が増幅します。指導,教育,周知といって事前の措置を実施する場合,実際には問題が発生しているにもかかわらず,経営者が,安心する逃避となっているだけで,先延ばしするだけの結果がせいぜいで,実際には,更に悪化,複雑化する始まりということも少なくないのです。

-- その場合であっても,前に進むかどうかを決めるために,パワハラの基準が必要かと思いますが。
前田 そうですね。素人向けの解説書には,パワハラの基準を理解することが重要であるかのように書いてあります。しかし,前回お話したように,国が公表している資料や判例・裁判例で,白黒をつけ,うっかり自己判断で白黒付けて対応すると,危険レベルがどんどん上がっていくことになりかねません。

-- 一体どうしたらよいのですか。

前田 まず,何か気配があるだけであっても,察知したのであれば,具体的な問題発生と理解し,直ちに事実関係を把握し,解決に適した対策を実施するということです。ハラスメント問題の処理は,金銭解決だけではケリが付かず,先入感,価値観に囚われず,慎重に対処する必要があります。例えば,当事者の一方が退職して決着がついたかのように見えたが,会社の調整の仕方が悪いと会社の責任が問われた事例があります。また,時が経つにつれて針小棒大な意識行動が現れる「過敏な被害者」(ハイパーセンシティブ・ヴィクティム)問題もないがしろにはできません。会社の目の届かないところでの従業員同士のいじめ,部下の上司に対するいじめ・いやがらせも,パワハラの範囲です。会社としては,紛争にしたくないという思考に向きがちです。まず広く捉えて行動することです。労使問題に関わる法律,裁判の実際は,経営者の考え方,価値観からすると,信じられないほど労働者寄りの基準,判断となるというのが実際です。価値観を変える必要がありませんが,世の中の動きをきちんと知らなければなりません。

-- そうすると,何を押さえれば良いですか。
前田 まず,従業員の対立とか,会社として問題社員の存在として感じる何かがあったら,すぐ対策を考えること。一般的に説明されているような理屈の問題として捉えず,個別的な問題として,その状況を具体的に把握し,とりあえず対策を考えてみることに尽きます。

(2015年2月)

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